景観・コース管理・思想による伐採の難しさ

霞ヶ関CC東コース
1957年、霞ヶ関CC東コースで行われたカナダカップで、欧米の選手を破り中村寅吉が個人優勝、小野光一と団体優勝を果たすと、日本にもゴルフブームが沸き起こり、戦後の復興時代の波に乗って多くのコースが建設され、70年までの10年強の間、コースの数は飛躍的に増えた。
その時代に造られ開場したコースも今では50~60年という歴史を刻んでいる。
開場時には小さかった植栽も今では見上げるほどの大木になっていることだろう。各ホールをセパレートしていた林も鬱蒼と茂り、林間コース特有の景観となっているに違いない。
木が大きく育ち枝を伸ばすとホールの雰囲気は高まり、歴史を感じることにもなる。今から10年数年ほど前、アメリカでは育ち過ぎた樹木の伐採が盛んに行われるようになった。歴史があり、雰囲気のあるコースは一変し、殺風景になってしまったコースもあった。
だが、木が大きくなり過ぎると日陰を生むことになり、季節を問わず晴れた日には毎回同じ場所が日陰になる。育つことで日陰の面積は少しずつ大きくなっていく。そのぶん、風の通りも悪くなりコースの芝にとって歓迎すべきでことではないのだ。だが、大きく育った木を切り倒すのには勇気がいる。特に日本人は「万物に神が宿る」思想を持っているため大きく育った木を切ることに罪悪感を生じ躊躇してしまう傾向がある。確かにその通りだが木が大切か、芝が大切かを考えれば答えは明白になる。
コース造成時に植えられた戦略的要素を持たせた木も年月とともに大きく育ち、その戦略的要素が薄れプレールートを阻害していることも多々ある。

写真上:金沢リンクス/写真下:袖ヶ浦カントリークラブ、林間は曲げてはいけないというプレッシャーが感じられる
例えば、林間コースでやや左ドッグレッグになっているホールで左ラフに木が植えられているとする。アベレージゴルファーはその木のフェアウェイ右側を狙って打つことになる。飛ばし屋は左に植えられている木の上を通過して最短距離を考える。だが、大きく育った木の枝が必要以上に張り出し、植える時に設計者が想定していた上空のハザードが曖昧になり本来の攻略ルートを阻害していて狙えないことになる。飛距離を生かした攻略ができない、飛距離の報酬を受けることができない。この場合、繁った枝の剪定をする必要があり、もしくは伐採をすることにもなる。
このような現象は多くのコースで生じている。実際に体験した事例を紹介しておこう。あるコースでティーアップしようとフェアウェイ方向を眺めハザードなどの確認をしたが、ホールの右側に大きく繁った木が2本あり、その根元に白い部分が見え隠れしてバンカーが2つあるようだった。
コースのオーナーとのラウンドだったため「バンカーがあるんですか。ハザードは打つ前に見えなければフェアではないです。ハザードをゴルファーに認識させるのは、その場所には打ってはいけないと教えているのです。あの2本は切る必要がありますよ」とオーナーに伝えた。2本の木はいつの間にか大きく育ちバンカーの視認性が悪くなったという。フェアウェイの右ラフだったこともありプレーにあまり関わらないからそのまま放置していたとのこと。後日確認したら、2本の木は伐採され、構えた時右のある2つのバンカーは確認できるようになったそうだ。
このような事例はかなりある。
木を伐採した当初はスカスカになり違和感があるものだが、暫くすると気にならなくなり、気が付けば残された木はいつしか大きく育っている。木を切ると風が吹き抜け、芝に陽光がそそぎコースの芝は生き生きとしてくる。
「木が大切なのか、芝が大切なのか」考えれば答えはひとつ。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中