自分だけのシグネチャーホールを見つける楽しみ

記憶に残るホール、その多くは「景観が素晴らしかった」というもの
ゴルフのプレー中に記憶に残る印象的なホールに出合うことがある。その印象はゴルファーにより差はあるだろうが、その多くは「景観が素晴らしかった」というものだ。もちろん「難易度も高かった」という印象もある。それらのホールは一般的に「シグネチャーホール」と呼ばれる。 どのようにしてシグネチャーホールが生まれるのか、考えたことがある。思うに、
①地形的に優れている
②攻略ルートが考えられている
③借景を含め景観に優れている
などの要素によりゴルファーへの印象度はより強くなる。ところが、名コースと評価されているコースでも印象に残るホールが少ない現実がある。名コースと印象的なホールがあるというのは全く別の価値観ではないだろうか、そんな疑問を抱き、コース設計家に質問してみた。
日本ゴルフコース設計者協会理事長でコース設計家の佐藤謙太郎さんは「コース設計家として、18ホールのなかに印象的なホールを意識して設計することはないでしょう。与えられた敷地内にどのように18ホールをレイアウトするかが大切なことで最初の課題といえます。コースにより地形は全て異なりますし、その地域の気候、細かく言えば気温、湿度や降雨量、標高や自生している樹木などさまざまです。それに加えて朝日が昇る方向、沈む方向も大事になります。その理由は、午前中のスタートは背後から陽を浴び、ハウスに戻る時には背後から夕陽が当たるようにするからです。スタートから太陽に向かいプレーしたり、ハウスに戻る途中、眩しい夕日を浴びながらのプレーはいいものではありません。 このような要素を入れて全体のレイアウトを考えるわけです。その過程で、池や借景などにより印象的なホールが結果的に生まれることになります。最初からシグネチャーホールを造ろうと考えることはないですね」。

サイプレスポイントクラブの海越えホールは、シグネチャーホールと認識されている
18ホールをレイアウトする過程でシグネチャーホールが生まれることになることは理解できた。コース設計者アリスター・マッケンジーが生存していたら質問したいのは「意識してサイプレスポイントクラブのシグネチャーホールを設計したのか」ということだ。
世界ランキングで常に上位に位置するサイプレスポイントクラブは海越えが3ホール(15番、16番、17番ホール)続き、非常に印象的で景観にも優れ、しかも難易度はかなり高い。海を自然のハザードとして採り入れた結果、3ホール連続でデザインしたものと解釈でき、あまりにも印象的なことからシグネチャーホールと認識されている。確かに地形的には印象深いが、サイプレスポイントクラブでは内陸部のホールでのバンカー形状に特徴があると思う。開場当時の写真を見る限りかなりアグレッシブなデザインがされているからだ。そこにある海岸線を活かしたのと、意図的にデザインされたバンカーとでは設計者の思惑に差異があるように思える。だが、ゴルファーには海に沿った3ホールのほうが強く記憶に残るだろう。

鳴沢GC 8番・174Y・P3
山梨県に鳴沢GCがある。個人的に何度もプレーしたいと思うコースのひとつだ。富士山麓の高低差を感じることのないように巧みにレイアウトされたコースで、赤松とフェアウェイの洋芝の青さが美しい景観を作りだしている。そのなかでシグネチャーホールとされているのが8番ホールだ。実はこのホールだけが富士山に向かってショットをすることになる。高低差を感じることなくプレーをするために全体が富士の頂と並行するようなレイアウトにされていることから、意識して富士山に向かって打つホールを造ったと設計した嶋村唯史さんは教えてくれた。しかも池越えのため池面に逆さ富士が映し出されてかなり印象的である。プレーした誰もが8番をシグネチャーホールと認識し記憶するといわれている。
シグネチャーホールは結果的に生まれるものだが、ゴルファーそれぞれの価値観によって自分だけのシグネチャーホールを発見しながらプレーを楽しむのもいいと思う。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中