
蟬川のラフからのアプローチを見入る中嶋常幸
60度ウェッジはソール違いを3本用意し練習ラウンドで試す

14日は60度のソール違いのウェッジを3本バッグに入れていた
中嶋のアドバイスを受ける一日前、蟬川はバッグにソール形状が異なる60度のウェッジを3本入れて試していた。これは、「芝質によってボールへの入り方や抜け方が変わるため、今回の芝に合うソールを見つけるため」だ。このタフなセッティングの日本オープンに対応できる最適な一本を見極めようとしていた。
中嶋が注目したのは、まさにこのウェッジだ。
「ラフの長さなどを考慮すると、56度のほうが60度に比べて圧倒的に(ソールが地面に)潜る心配が少ない」
松山英樹も56度を多用しているという話に触れつつ、ラフが深く設定されるメジャーセッティングにおいては、60度よりも56度で様々なバリエーションのアプローチをすることを想定すべきだと助言した。蟬川はこのアドバイスを、「今回の大会もそうですが、今後PGAツアーなども含めて考える上での、一つの貴重な指標として参考にさせていただきます」と真摯に受け止めた。
「誰かが行ったから僕も行ける」ではない
同学年の平田憲聖がコーンフェリーツアーからPGAツアー昇格を決めたことについて聞くと、「レベルがすごく高いなと感じました」と率直に語る。自身もコーンフェリーツアーに4試合出場したが、「今年は(怪我で)断念せざるを得ませんでしたが、コーンフェリーツアーのレベルの高さを痛感した」という経験を持つ。その中でトップ15に入りPGAツアー昇格を決めた平田の活躍は、大きな刺激であることは間違いない。
しかし、安易な発言はしない。「いまの女子プロの活躍は渋野日向子さんのAIG女子オープン優勝を見て、『自分もできるはず』と思った結果だと言われることが多いですが、そのようなことは思いませんか?」と質問すると、「自分がレベルアップをしないと、『誰かが行ったから僕もいけるんじゃないか』という簡単な考えには思えない」と回答。
これは、自らがPGAツアーへ挑むためには、他者の成功ではなく、自らの絶対的なレベルアップが不可欠だという、蟬川のプロとしての厳しい自己認識を示している。
「狙って勝てる大会ではない」からこそ
最後に、日本オープンへの意気込みを聞くと、「狙って勝てるような大会ではないですが、やはり一度勝った試合ですし、この大会は日本で一番大きいタイトルでもあるので、もちろん優勝を目指したいと思っています」と語った。
悪天候が予想される初日に向けては、「あまり良くないコンディションの中でも、しっかり一つでも多くスコアを伸ばせたらいいなと思っています」と、タフなセッティングでの粘り強さを誓った。
日本ゴルフ界のレジェンドからの助言を糧に、世界基準のウェッジワークを磨き上げようとする蟬川泰果。その現状に満足しない向上心こそが、彼を再び大舞台の頂点へと導くだろう。
撮影/姉崎正