シェフラー、マキロイの活躍によって、2025年のメジャー3勝を支えたパターとなった「スパイダー ツアーX」。その勢いは販売面にも表れ、パターの売上ランキングで軒並み1位を記録している。さらに、先日発売された「スパイダーZT」も品薄状態が続くなど、スパイダーの存在感はいま急速に拡大中だ。そこで改めてスパイダーを深掘りし、その“定番化”の理由を探ってみたい。3回連載の第1回は、スパイダーの歴史にスポットライトを当てる。

“ネオマレット”の呼称を生んだ、初代スパイダーの圧倒的な存在感

画像: 外側を重く、内側を軽くに徹し、大MOIを追求した初代スパイダー。空洞とジェットエンジンのような後方のウェイトが特徴

外側を重く、内側を軽くに徹し、大MOIを追求した初代スパイダー。空洞とジェットエンジンのような後方のウェイトが特徴

2008年、初代スパイダー(ロッサ モンザ スパイダーAGSI+)が誕生。当時としては破格に大きなヘッドサイズで、マレットパターの枠を超えた存在だった。“ネオマレット”という呼称が生まれたのも、まさにこのスパイダーの登場がきっかけだろう。

スパイダー以前、ツアーではブレード型パターが8割を占めていた。しかし今では、スパイダーに代表される高機能なマレット型を使用する選手が約6割。時代の主流は完全に入れ替わった。

画像: ブレードからマレット、そしてネオマレットへと時代は変わってゆく

ブレードからマレット、そしてネオマレットへと時代は変わってゆく

2008年、ツアーにお披露目されたスパイダーは、初週に4人のプレーヤーが使用し、5週後には8名に拡大。J.B.ホームズが同年2月のアリゾナ大会で初勝利を挙げると、ツアー現場から在庫が消えるほどの人気を博した。

画像: スパイダーを使った初めての優勝者となったJ.Bホームズ(2008年 FBRオープン)

スパイダーを使った初めての優勝者となったJ.Bホームズ(2008年 FBRオープン)

その後、プロから「同じ形状・同じ性能で、もうひと回り小さくできないか」という要望を受けて誕生したのが「Spider itsy bitsy(スパイダー・イッツィー・ビッツィー)」。オリジナルより約15%小型化されたヘッドサイズは、最新モデルにも継承されている。

画像: 写真はスパイダー ゴースト

写真はスパイダー ゴースト

画像: イッツィー ビッツィーは全長が約10㎜短い

イッツィー ビッツィーは全長が約10㎜短い

「スパイダーには、初代から最新のZTまで、一貫して守り続けている3つのポリシーがあります。1つはミスヒットへの寛容性。2つめは転がりの良さ。3つめは構えたときのアライメント(エイム)の取りやすさです。世代を追うごとに素材や構造を進化させながら、この3点を磨き続けています」(テーラーメイド 開発担当・田中桂氏)

ツアープロでも当然ミスヒットは起こる。特にトウ側のミスが多く、そこでいかにヘッドのブレを抑えるかが鍵だった。慣性モーメントを高めるためヘッド外周に重量を配置し、蜘蛛が足を広げたような独特のシルエットが生まれたのだ。

フェース面の溝もスパイダーの象徴だ。初代の「AGSI+」から「ピュアロール」へと進化し、インパクト直後のバックスピンを抑えて素早く順回転へ導く。その結果、他にはない“転がりの良さ”を実現している。

画像: 進化を続けるフェースインサート。転がりの良さを生む(写真は最新のスパイダーX)

進化を続けるフェースインサート。転がりの良さを生む(写真は最新のスパイダーX)

アライメントにおいても、一本線、T字、ボール幅の「トゥルーパスアライメント」など、多彩なパターンを開発。視覚的な構えやすさを追求してきた。

カラーリング、ネック形状…進化の裏にデイの存在あり

画像: さまざまなカラーでグリーンを攻略したデイ。スパイダー躍進の裏には彼の存在があった

さまざまなカラーでグリーンを攻略したデイ。スパイダー躍進の裏には彼の存在があった

そしてスパイダーの価値を一気に高めたのがジェイソン・デイだ。2011年のマスターズで、当時ツアー1勝のほぼ無名の選手が2位タイと大躍進。その手に握られていたのが白い「スパイダー ゴースト」だった。白ヘッドはR11ドライバーでも話題となっていたが、それをパターで実戦投入したことで一躍注目を集めた。

その後、2015年の全米プロでデイが初メジャー制覇を果たした際は黒のプロトタイプ。翌年、世界ランク1位に上り詰めたときには、赤い「ゴースト スパイダー リミテッドレッド」を使用。これは2017年に発売された「スパイダー ツアー レッド スモールスラント」の原型となった。

画像: ジェイソン・デイがグリーンに持ち込んだ、赤い「スパイダー」。赤のカラーリングは今でもトップ選手が使うなど根強い人気を誇る

ジェイソン・デイがグリーンに持ち込んだ、赤い「スパイダー」。赤のカラーリングは今でもトップ選手が使うなど根強い人気を誇る

白や赤といったヘッドカラーは、単なる遊び心ではない。芝の緑とのコントラストを生かし、構えやすさと残像効果を高める“エイム”の一環だ。赤ヘッドは、開発者ビル・プライスとデイの意見交換から生まれたモデルでもある。

デイはさらに“ネック構造”にも変革をもたらした。

「それまでネオマレットは、ダブルベンドシャフトが主流でした。しかしデイはネックを求め、接合部を削って小さなネックを溶接。これが今マキロイも愛用する“スモールスラント”の原型となりました」(田中氏)

画像: 小さなネックを取り付けたスモールスラント。ミスヒットに強い性能はそのままに、操作性も担保される(写真はスパイダー ツアーX)

小さなネックを取り付けたスモールスラント。ミスヒットに強い性能はそのままに、操作性も担保される(写真はスパイダー ツアーX)

シェフラーが使うクランクネックなど、スパイダーは多様なネック形状を展開。直進安定性に優れる構造に、あえて操作感をプラスしたいプレーヤーにも応える。その原点も、デイの発想にあった。

画像: 圧倒的な強さで、世界No.1にも輝いたダスティン・ジョンソン。見た目はブレードタイプが好みというが、結果を出していたのは「スパイダー ツアー ブラック」のほうだった

圧倒的な強さで、世界No.1にも輝いたダスティン・ジョンソン。見た目はブレードタイプが好みというが、結果を出していたのは「スパイダー ツアー ブラック」のほうだった

画像: メジャー挑戦74試合目となる2017年のマスターズで初の栄冠を手にしたガルシア。その時手にしていたのは「スパイダー ツアー レッド」のスモールスラントタイプだった

メジャー挑戦74試合目となる2017年のマスターズで初の栄冠を手にしたガルシア。その時手にしていたのは「スパイダー ツアー レッド」のスモールスラントタイプだった

強い選手が使うのか、使うから強くなるのか

ジェイソン・デイ、ダスティン・ジョンソン、セルヒオ・ガルシアらの活躍により、“結果の出るパター”として不動の地位を築いたスパイダー。そして2019年に「スパイダーX」、そして2024年に現在のNo.1・No.2プレーヤーが愛用する「スパイダー ツアーX」が誕生する。

画像: シェフラー、マキロイが愛用する「スパイダー ツアーX」。ヘッド後方のジェットエンジンのような部分はなくなっているが、素材や構造の変化によって大きなMOIは堅持(写真はクランクネック)

シェフラー、マキロイが愛用する「スパイダー ツアーX」。ヘッド後方のジェットエンジンのような部分はなくなっているが、素材や構造の変化によって大きなMOIは堅持(写真はクランクネック)

従来は外周にスチール、中央にアルミ素材という構造だったが、スパイダーXからは単一構造ながら中央部を空洞化。さらにタングステンウェイトを配置することで、従来と同等のMOIの大きさを実現した。空洞化によるインパクト時の残響音を抑えるため、フェース裏に振動吸収材を用いて、世界のトップ選手も納得する打感の良さをクリアしている点も見逃せない。

画像: 「スパイダー ツアーX スモールスラント」でキャリアグランドスラムを達成したマキロイ

「スパイダー ツアーX スモールスラント」でキャリアグランドスラムを達成したマキロイ

マキロイは2020年頃から「スパイダーX スモールスラント」を使用し、その後、現在の「スパイダー ツアーX スモールスラント」に持ち替え、今年悲願のマスターズ制覇。シェフラーも「スパイダー ツアーX クランクネック」でツアー13勝(通算19勝)、パリ五輪金メダルを獲得するなど、圧倒的な成果を上げている。

ゼロトルクから始まる、スパイダーの新たな進化論

そして最新作「スパイダーZT」は、ゼロトルク構造によってさらなる進化を遂げた。

画像: 「スパイダー ZT」。ゼロトルクでオートマチック感が高い

「スパイダー ZT」。ゼロトルクでオートマチック感が高い

「抵抗なく真っすぐ引けること、ヘッド軌道に対して常にフェースが直角を保つことが特徴です。そのためストロークが非常にオートマチックになり、プロがスランプを抜け出すときや、アマチュアが自信を付けるためにも最適な一本です」(田中氏)

「スパイダーZT」ではロゴと蜘蛛のマークを刷新し、テーラーメイド自体のロゴも姿を消した。“テーラーメイドのパター”ではなく、“スパイダーというブランド”として歩み出したのだ。2008年から続く歴史が、その礎となっている。

進化の軌跡をたどれば、スパイダーは単なるヒット作ではなく、時代とともに“パターの常識”そのものを変えてきた存在だとわかるだろう。ネオマレットの夜明けから17年——いまやスパイダーは、プレーヤーの個性に寄り添い、勝利を引き寄せる“信頼の象徴”となっている。

PHOTO/Tomoya Nomura、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Takanori Miki、Getty Images

【次回予告】第2回は、スパイダーのテクノロジーと構造進化の核心に迫ります。

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