萩原菜乃花

昨年まで下部ツアーなどの実況や現地リポーターを担当していた萩原
はぎわら・なのか。名門日本大学ゴルフ部に所属して腕を磨き、ベストスコアは75。学生時代から週刊ゴルフダイジェストなどに登場。大学卒業後はライムライト所属のフリーアナウンサーとして活動中。
国内男子の下部ツアーは今年から「ACN」が新たな冠スポンサーとなり、開催されてきた。開幕戦である「Novil Cup」からこれまで12試合にわたり熱戦が繰り広げられ、11試合で初優勝選手が誕生した(若原亮太選手が2試合で勝利を収めた)。最終戦でも新チャンピオンが生まれるのか、それとも若原選手に次ぐ、年間複数回優勝者が生まれるのか、激戦が期待される。そして、優勝賞金は360万円と全13試合の中で最高額で、今年から制定されたACNツアーポイントも通常の試合の1.5倍(通常の試合で優勝は540ptsだが、今大会は810pts)と、年間王者や裏シードへの一発逆転も可能となっている。
上位選手のポイント加算はもちろんあるが、単純計算でポイントランク18位の藤本佳則選手が現在490.268ptsなので、優勝すれば1300.26ptsになり、トップを走る若林選手の1292.31ptsを追い抜く。このことから18位までに年間王者の権利が残されているといえる。また、20位の岩井亮磨選手が429.378ptsなので、現在、ポイント0の選手ですら優勝すれば裏シードが獲得できる計算だ。
ちなみに、上位20位までに与えられる裏シードだが、レギュラーツアーのシード選手がいれば権利が繰り下がることになっている。現在、古川龍之介選手が35位、藤本佳則選手が65位でシード圏内、また田中章太郎選手も72位と第2シード圏内なので、23位まで繰り下がる可能性がある。その23位の出利葉太一郎選手が55位なので、実質のターゲットは24位。24位は359.163ptsの櫛山勝弘選手なので、獲得ポイントが405ptsの2位に入れば誰でも裏シードが獲得できるということになる。
では、注目選手を紹介していこう!
初代年間王者に王手 若原亮太

ポイントランク1位で最終戦を迎える若原亮太
年間ポイントランク現在1位に立つ若原亮太選手。今年は「住地ゴルフチャレンジトーナメント」と次戦「ダンロップフェニックストーナメントチャレンジinふくしま」で2試合連続優勝を達成し、その勢いのまま最終戦を迎えた。
「リーダーボードを見ない」勝負の哲学
若原選手の優勝の裏には、独自のメンタルマネジメントがある。伸ばし合いは苦手なほうだという若原選手だが、「住地ゴルフ」では「いい意味で自分に期待しておらず、余計なことは考えずにバーディを狙っていた」といい、18番のセカンドを打った後に初めてリーダーボードを確認すると、福住修選手と並んでいた。18番パー5で2オンに成功し、イーグルパットを打とうとしたタイミングで、福住選手がボギーを打って単独トップに変わっていたことを再度確認。「入れにいこうとしていたイーグルパットを寄せることに変更。運もあっての優勝だった」という。
続く「ダンロップフェニックスチャレンジinふくしま」では最終組での優勝争いだったが、「自分でも怖いくらい冷静で、その週で1番楽しんでいたのは僕だと思う」と語る。特に緊張しいの若原選手だが、最終日はスタート時のキッズエスコートに癒され、「キッズたちが可愛くて癒され緊張しないままスタートできた」というエピソードも明かした。
どちらの優勝時も最終18番までリーダーボードは確認せず、この習慣は「2年前のANAオープンでリーダーボードを確認してから、『もっと伸ばしたいな』という思いの影響か、スコアを落としてしまった経験があるから自分には向いていない」と判断したものだ。
彼の強みは「大きいミスが少ないこと」であり、パーオン率も71.354%(13位)と向上(24年の記録は競技数不足ながら56.667%だった)。「昨年からの変化といえば大学の後輩の須藤大和コーチにパッティングを見てもらうようになった」ことで、それ以外はトレーニングや練習方法は変えていないという。
「去年はファイナルQTには進めずサード敗退。そのことから今週も試合に出られていることがまず嬉しい」と謙虚に語る若原。「過去1度も予選通過していない」という苦手の取手国際GCだが、今年の流れなら初の予選通過も期待大。「年間王者に向け、まずは大事な初日」とし、初代王者を狙う。
初日は8時42分に10番Hからスタート。アマチュアの武田紘汰選手、板東寿匡選手、山本大雅選手と同組。
覚悟のアメリカQT第一次通過出利葉太一郎

米ツアーを見据える出利葉太一郎
飛距離とポテンシャルのある出利葉太一郎選手。アマチュア時代から「すぐレギュラーいけるよ」「すぐ勝てるよ」と周りからかけられる言葉を鵜呑みにし、昨年は「プロの世界はもっと厳しく、甘くないこと」を痛感。今シーズンはACNツアー開幕戦「Novil Cup」で4位タイ、レギュラー開幕戦「東建ホームメイトカップ」でも3位タイと調子が良かったが、徐々に調子が落ち、「センスがないんじゃないかなと思うくらい葛藤があった」という。
「何を目指してるの?」で目覚めたメンタル
彼のメンタルが一転したのが、星野陸也選手のバッグを担ぐ薬丸龍一キャディとコンビを組んだ「リシャール・ミル チャリティトーナメント」での出来事だ。練習中におしゃべりしていた出利葉選手に対し、薬丸キャディから「何を目指してるの? シード取るんだよね? それでシード取れると思っているの?」という厳しい言葉を投げかけられた。その言葉にハッとし、「新しい血が入ってきたような気分だった」と語り、そこから言葉の意味を理解し、練習の量、質ともに向上したという。
今は「毎週が試合あってありがたい、また明日も上手くなれる、明後日もゴルフができる、また上手くなれる!」とゴルフをできていることが幸せだという。
先週、アメリカのQシリーズの1次に参加し、3位で通過したことで「いまはなんでもかかってこいや! のメンタルです」という。「ディボットに入っていても、よっしゃ、どうやって打とう! 失敗しても、もう一回やらせてくれ! と楽しんでやれています」。
日本のサードQTはアメリカのQシリーズの2次と重なってエントリーしておらず、「もしレギュラーツアーのシードもACNツアーでの裏シードも獲得できなければ来年の居場所がないという状態。そのくらいの覚悟を持ってアメリカに行ってきた」と、退路を断った挑戦であることを明かしてくれた。
なお、QTでアメリカに行っていた時にコーチである高橋竜彦プロも試合で優勝争いを経験しており、「お互いがお互いを意識しながら相乗効果で良い成績が出せた」という。来週のレギュラーツアー「フォーティネット プレーヤーズ カップ」ではコーチのバッジをつけた竜彦プロが来場予定だ。
ここからは私の感想になるが、前回の取材時からメンタルが見違えるように強くなったように感じた。今までは真面目さゆえに少しネガティブ思考になる場面でも、いまは前向きな言葉が出ている。去年は本大会で2位。常日頃どんなことからも吸収できるような真面目さと頭の良さがある出利葉選手の今後の活躍が楽しみです!
初日は9時10分に1番Hからスタート。百目鬼光紀選手、玉城海伍選手、松本将汰選手と同組。
チャンスを掴んだ努力家半田匠佳

ミニツアーからチャンスを掴んだ半田匠佳
続いては、半田匠佳(はんだ・たくよし)選手。実は、私・萩原菜乃花と日大ゴルフ部の同期で、真面目な性格から「半田先生」と呼ばれている。今週、「ディライトワークスゴルフツアー(※)」の最終戦で8位に入り、ACNツアー最終戦への切符を掴んだ。「ディライトワークスゴルフツアー」は30歳以下の若手のためのツアーであり、「出場できる最後の年に掴み取った出場権」となった。
半田選手は昨年のQTで265位になった直後から、今年のQTを見据えて練習とトレーニングを徹底。体幹や全体的な筋力、瞬発力のアップに成功し、「飛距離も10ヤードほど伸びた」という。
強みは「昔からパッティング」。課題は「アイアンショットでバーディチャンスに寄せることが少ない」ことだが、「今週は距離が長くないコースなのでバーディチャンスにつけられればチャンスあり!」と意気込む。
ちなみにチャンスをつかんだ「ディライトワークスゴルフツアー」のことを「出場できる試合が少ないなかで大会を開催していただき本当にありがたいです。一般的なミニツアーに比べて、上位に入ればACNツアーの最終戦である今大会に出られたり、一次QTが免除になったりと、しっかり次の試合に繋がっているところが魅力」と語る。
真面目さと努力が実を結び、出場権を勝ち取った半田選手の挑戦にも注目してほしい。
初日は8時59分に1番Hからアマチュアの福井誠ノ介選手、蛭川隆選手、新村駿選手と同組。
※「ディライトワークスゴルフツアー」とは、次世代を担う若手プロゴルファーの競技力向上を目的としたミニツアーで、ツアー全7戦の成績に応じてDWGT(ディライトワークスゴルフツアー)ポイントを競い、優勝者と上位者がツアー最終戦へ進出。ツアー最終戦の上位8名には副賞として、ACNツアー最終戦「ディライトワークスJGTOファイナル」の出場権が与えられ、さらに、第6戦までのEXポイント上位2名には、2025ジャパンゴルフツアーQT 1stステージが免除される。
撮影/岡沢裕行