欧州の貴族に愛された保養地「ビアリッツ」のルーツ

Biarritz Templateの図
ゴルフ場のグリーンは基本的には円、もしくは楕円形の形状をしている。日本ではおおむね円形に近いグリーンが多かったが、ゴルファーの来場者が増えたことや、芝の管理技術の向上などでグリーン面積は大きくなり、形状も多様化した。大きくなったことからグリーン面の傾斜やマウンドもかつてより付けられるようになり、難易度は高まってもいる。
世界に目を向けてみると、奇抜ともいえるデザインのグリーンがある。日本では馴染みがないと断言できるのが「四角のグリーン」だ。ほとんどのゴルファーは体験がないだろうが、タイのインランドリンクスといえるバリシアーゴルフリンクスの8番グリーンの形状はなんと長方形だ。
ふたつの方形が溝を挟んで縦に並べられている。溝にも芝が張られていることから、ここに落とすとアプローチでピンを狙うことになる。ホールは打ち下ろしではないことから、ティーイングエリアで構えてもグリーン形状は把握できないが、グリーンに辿りつくと驚いてしまう。
このデザインのルーツは何か、と資料を探し求めたことがある。
「ビアリッツ」はフランス南西部の大西洋ビスケー湾に面した町で、19世紀以来、イギリスのビクトリア女王、エドワード7世、スペインのアルフォンソ13世などの王族や貴族に愛された保養地だ。文豪ビクトル・ユーゴーは「私はビアリッツより素晴らしい場所を知らない」と語っている。

写真はハリー・コルト
1888年、駐在していた英国人がゴルフ場を建設し、翌年にスコットランドのプロ、ウィーリー、トム・ダン兄弟によってコースとして整えられた。1920年代になるとハリー・コルトによる改造が行われている。
ビアリッツのホールはもともと3番ホールで、フランスでは「キャズム(裂け目)」との名前が付けられていた。しかし、チャールズ・ブレア・マクドナルドがニューヨーク州ロングアイランドに手掛けた、限られた富裕層のためのパイピングロックCの9番ホール(227ヤード/パー3)にモデルとしたとき、「ビアリッツ」と地名が付けられた。
実際に設計したのはマクドナルドではなく、仕事上のパートナーであるセス・レイナーによるもので、レイナーはイエール大学GCの9番(225ヤード/パー3)でもビアリッツをデザインしている。1917年、マクドナルドが手掛けたリドーCCの8番(234ヤード/パー3)での名称は「オーシャン」だった。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中



