「MT-28」「MTIウェッジ」など数々の名器を世に送り出し、日米両ツアーで多くのプロ支給品を手がけたクラブ設計家、宮城裕治氏が流行に惑わされないクラブ選びとクラブ設計の真実をクールに解説。今回はカーボンコンポジットドライバーの進化の“裏話”を教えてもらった。
画像: 異素材パーツを複合したモデルはさまざまな工夫がある(写真はイメージ)

異素材パーツを複合したモデルはさまざまな工夫がある(写真はイメージ)

ここ数年、カーボン比率を高めたモデルが登場

みんゴル取材班(以下、み):いま世に出ているドライバーの多くがチタンとカーボンのコンポジット構造を採用していますが、ここ5〜6年でクラウンだけでなくソールやフェースにもカーボンを採用するモデルが増えています。やはりルールの範囲内で性能を上げるにはカーボン比率を上げることが必須なのでしょうか?

宮城:比重の軽いカーボンで余剰重量を増やせば設計自由度が高くなるのは確かです。ただ、素材として一概にカーボンがチタンよりも優れているとはいえません。現に松山英樹選手はカーボンコンポジットとフルチタンの両方を打ち比べて、フルチタンのほうが初速が出ると評価したそうです。また、フルチタンは打感がやわらかいというプロも大勢います。

み:なるほど。一旦カーボンクラウンを採用したスリクソンも「ZX Mk II」でフルチタンに戻りましたね。その一方、テーラーメイドの「Qi35」は自らカーボンウッドと称するほどカーボンの比率を高めています。

宮城:クラウン以外にカーボンが使われるようになった要因としては接着剤の進化が大きいと思います。カーボンやアルミなど異素材のパーツをプラモデルのように貼り合わせる構造は設計者がねらった性能を出しやすい反面、パーツ同士の接着強度が求められます。

み:ヘッドスピードが50m/sをゆうに越える男子プロが打ってもヘッドがバラバラになったという話は聞ききません。相当強力な接着剤が使われていそうですね。

宮城:某国内メーカーにいた頃の話ですが、当時、カーボンクラウンが衝撃で剥がれないようにするためには8ミリくらいの幅の糊代が必要でした。ところが、当時評価の高かった外ブラのヘッドを調べてみたら糊代の幅が5、6ミリしかなくて驚いたことがあります。

み:2、3ミリの違いで何が変わりますか?

宮城:いくらカーボンが軽いといっても糊代が大きければそんなに余剰重量を作れません。200gのヘッドでせいぜい1gとか1.5gくらい重量を削っても性能は大して変わらないので、打感のいいフルチタンのプロトタイプを使うプロもいました。一方、外ブラを使うプロがカーボンコンポジットに乗り換えたのは、クラウンが本当に軽くて性能に明らかな違いが出ていたからだと思います。

み:外ブラがクラウンを軽く作れたのは接着剤のお陰ということですか?

宮城:そう思います。わずかな糊代でどうしてヘッドが壊れないのか、大手接着剤メーカーに成分分析を依頼したところ、接着強度の非常に高い接着剤を使っていることがわかりました。

み:その後、宮城さんのいたメーカーも同じような接着剤を採用したのですか?

宮城:残念ながら同じ接着材は使えませんでした。日本の工場の環境基準に適合しない成分が入っていたからです。外ブラが強い接着剤を使えたのは基準のゆるい海外の工場でヘッドを作っていたからのように思います。

み:なるほど、コンポジットドライバーの進化の陰にはそんな裏話があったわけですね。

宮城:元々カーボンクラウンを発案したのは松尾好員さんですし、世界初のコンポジットドライバー「DUO」を発売したのも日本のプロギアでした。とはいえ、環境や現場従業員の健康を守ることがもちろん最優先。日本メーカーが外ブラに先を越されてしまった要因として、そういった一面もあることを知っておいてほしいと思います。

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