2021年のマスターズ。松山英樹がアジア人初のグリーンジャケットに袖を通したあの日、最後まで食い下がり、1打差の2位で世界にその名を知らしめたひょろりとした若者を覚えているだろうか。 ウィル・ザラトリス、29歳。メジャーで何度も優勝争いを演じながら、常に「ガラスの腰」と戦い続けてきた彼が、長いリハビリを経てついにPGAツアーに帰ってきた。復帰戦となるのは、2026年の第2戦「ジ・アメリカン・エキスプレス」。開幕前の会見で語られたのは、選手生命を脅かすほどの苦悩と、それを乗り越えた安堵の言葉だった。
画像: 21年ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得したウィル・ザラトリス。腰痛から解放されて完全復活なるか(写真は25年ザ・セントリー、撮影/岩本芳弘)

21年ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得したウィル・ザラトリス。腰痛から解放されて完全復活なるか(写真は25年ザ・セントリー、撮影/岩本芳弘)

「対症療法」ではなく「根本解決」。4年ぶりに消えた坐骨神経痛

ザラトリスが最後にツアーで姿を見せたのは、2025年の「全米プロゴルフ選手権」。そこで椎間板ヘルニアを再発させ、再び戦線離脱を余儀なくされた。しかし、今回の離脱はこれまでとは意味合いが違ったようだ。彼はこのオフ、椎間板の置換手術(人工椎間板への入れ替え)に踏み切った。

「椎間板の置換と聞くと、みんな『なんてことだ、そんな手術を受けたのか』と身構える。でも、今回は2023年の手術(椎間板切除術)に比べて、回復が最も楽だったと言えるんだ」

なぜなら、前回の手術が痛みを和らげるためのものだったのに対し、今回は痛みの原因そのものを「解決」するものだったからだ。

「この4年間で初めてだよ。足に走る坐骨神経痛が全くない状態になれたのはね」

術後8週間は身体を動かせず、パッティング、チッピングと段階を踏んでのリハビリ。3年前から人工椎間板の可能性を模索していたが、十分なデータが揃うのを待っていたという。まさにキャリアの岐路で下した決断が、彼に「痛みゼロ」の身体を取り戻させた。

南アフリカで見えた光明。「週末だけなら優勝していた」

実はPGAツアー復帰に先駆け、昨年12月に南アフリカ(DPワールドツアー/ネッドバンク・ゴルフチャレンジ)で実戦復帰を果たしている。久々の試合に「木曜と金曜は少し錆びついていた(勘が戻っていなかった)」と振り返るが、そこで確かな手応えも掴んで帰ってきた。

「週末に関しては、私が優勝していたかもしれない(3日目が「68」、最終日が「67」。2日間のトータルスコアで実際は3番手)。尻上がりに調子が良くなって、チップインが決まったり、12メートル(40フィート)のパットが入ったり……調子が良い時に起こる『特別なこと』がまた起き始めたんだ」

怪我とともに失っていた「モメンタム(勢い)」を取り戻し、最高の状態で米ツアー復帰戦に臨む。

リハビリ中の“課外活動”はハリウッド映画!?

つらいリハビリ期間中、彼には意外な楽しみもあったようだ。それは映画撮影への参加。アダム・サンドラー主演の伝説的ゴルフコメディ『ハッピー・ギルモア』の続編に、ジャスティン・トーマスらと共にカメオ出演したのだ。

「撮影現場では、コーヒーのカップに役名の『ブロンディ(金髪くん)』って書かれたりしてね(笑)。アダムやJT(トーマス)たちと一日中一緒にいて、本当に楽しかったよ」

ドラマの演技経験などない彼だが、監督の助けを借りて「本人役」を演じきったという。精神的なリフレッシュも完了し、心身ともに万全の状態だ。

世界No.1と日本勢4人が待ち受ける復帰戦

「初戦からバーディを量産して、いい流れを作りたい」と意気込むザラトリスだが、復帰戦のフィールドは厚い。2026年初戦となる世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーがエントリーしており、優勝候補の筆頭だ。

画像: 24年ZOZOチャンピオンシップ最終日にはザラトリスと松山英樹は一緒にラウンドし、会場を沸かせた(撮影/岡沢裕行)

24年ZOZOチャンピオンシップ最終日にはザラトリスと松山英樹は一緒にラウンドし、会場を沸かせた(撮影/岡沢裕行)

そして日本からは、久常涼、金谷拓実、平田憲聖、中島啓太の4選手が参戦する。特にザラトリスといえば、「松山英樹が勝つ試合で上位に来る」という不思議な因縁がある選手。松山不在の今大会だが、若手日本勢にとっても、完全復活したザラトリスは高い壁となるだろう。

「これほど良い状態で戻ってこられたことはない」

そう語るザラトリス。ガラスの腰をチタン(人工椎間板)に変えた“アイアンマン”が、カリフォルニアの砂漠でどのようなショットを見せるのか。

かつてオーガスタを沸かせたあの切れ味が戻っていれば、2026年シーズン、彼は間違いなく主役の一人になるはずだ。

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