
PGAツアーへの復帰を表明したパトリック・リード(写真は25年マスターズ、撮影/岩本芳弘)
「フリーエージェント」発言の伏線
時計の針を少し戻すと、ドバイでの優勝会見(1月25日)において、リードは自身の契約状況について意味深な発言を残していた。LIVゴルフとの契約について問われた際、彼は「まだ契約を最終調整している段階だ。完了はしていない」と述べ、自身を「現時点ではフリーエージェントだ」と表現していたのだ。
当時、我々を含め多くのメディアはこの発言を単なる条件闘争の駆け引きと捉えていた。しかし、今にして思えば、それは決別へのカウントダウンだった。優勝会見で彼はこうも語っている。「世界ランキングのシステムは少し壊れているように見える」。メジャー王者でありながら、LIV移籍によってランキングを落とし、本来の実力を正当に評価されないフラストレーション。ドバイでの勝利は、彼の中にくすぶっていた「世界最高峰の舞台で戦いたい」という欲求を、決定的に呼び覚ます引き金となったのかもしれない。
「家族」という大義名分とケプカとの符合
リードが復帰の理由として挙げたのは、「家族」、そして「伝統」だった。
「私は根っからの伝統主義者であり、PGAツアーでプレーするために生まれてきた」
かつてPGAツアーのあり方に異議を唱え、新天地を求めた男が口にした「伝統」という言葉。ここには、先に特例でPGAツアー復帰を果たしたブルックス・ケプカとの奇妙な符合が見て取れる。
ケプカもまた、LIVを離れる最大の理由として「家族」を挙げた。巨額の契約金と引き換えに自由な時間を求めてLIVへ移籍したはずの彼らが、皮肉にも再び「家族のため」という理由で古巣への帰還を選んでいる。
LIVゴルフの「強制的なスケジュール」(全試合出場義務)や長距離の移動負担、あるいは「歴史」に残らない戦いへの虚無感か。真相は当人たちにしか分からないが、かつてのPGAツアーのスターたちが、相次いで「家」に戻ろうとしている事実は重い。
LIVゴルフ側の声明:「契約延長の合意に至らず」
一方、リードに去られた側のLIVゴルフリーグも公式声明を発表している。そこには、感情的な言葉ではなく、あくまでビジネスライクな決別の事実が記されていた。
「パトリックとの契約延長の可能性について、条件面で合意に至らなかった」
LIV側は声明の中で、リードがチーム「4Aces」の一員として貢献したことに感謝を示しつつ、彼の将来の幸運を祈るとした。興味深いのは、彼らが自身の立ち位置を「選手の移動の擁護者」と定義している点だ。
「ゴルフ界が『ニューノーマル(新常態)』に落ち着けば、選手たちは自分たちが望む時期と場所でプレーする権利だけでなく、その機会も手にするだろう」
声明の結びでは、「世界的なゴルフリーグの構築」という目標に引き続き注力する姿勢を強調。去る者を追わず、あくまで組織としての長期的ビジョンを優先する姿勢を崩さなかった。
2026年8月25日、復帰へのロードマップ
しかし、PGAツアーの門戸は無条件に開かれているわけではない。PGAツアーが発表した声明によれば、リードの復帰プロセスは厳格な規定に基づいて行われる。
リードが最後にLIVゴルフ関連のイベントに出場したのは、2025年8月24日に終了した「LIVゴルフ・チームチャンピオンシップ ミシガン」である。LIVゴルフを含む無許可の大会出場による1年間の出場停止期間を経て、彼がPGAツアーの試合にノンメンバーとして出場可能になるのは、2026年8月25日以降となる。
また、ペナルティとして、PGAツアーの利益分配プログラムである「Player Equity Program」への参加資格は2030年まで剥奪される。金銭的なメリットを捨ててでも、彼は競技者としての「場」を選んだことになる。
日本開催「ベイカレント」での復帰はあるか
ここで注目されるのが、復帰直後のスケジュールだ。2026年8月25日に出場停止が明けるということは、秋のフェデックスカップ・フォールシリーズへの参戦が可能になることを意味する。
特に有力視されるのが、日本開催のビッグトーナメントへの出場だ。ザンダー・シャウフェレが制した「ベイカレント C レクサス」などは、その時期に開催される数少ない高額賞金大会であり、招待選手としての出場枠も柔軟だ。リードのカテゴリーである「Past Champion(過去の優勝者)」は、推薦出場などの受け皿としても機能しやすい。
かつてオーガスタを制し、世界を敵に回しても動じなかった男、パトリック・リード。彼が再びPGAツアーの芝を踏むとき、そこにはブーイングが待っているのか、それとも帰還兵への拍手が送られるのか。
「妻のジャスティンと共に物語が始まった場所へ戻る」
その言葉通り、リードの第二章が、2026年の後半から幕を開けようとしている。


