
海外のスポーツ関連の学会にも熱心に参加した市村教授(右)
享年86歳。1939年、水戸で生を受ける。水戸一高時代、シェイクスピアを原文で読み、語学が堪能、陸上の三段跳びもやっていたことから、「これからの学問、スポーツ心理学をやってほしい」と勧められ、東京教育大学(現・筑波大)に進学したという。米国イリノイ大学でスポーツ心理学修了。筑波大教授退官後、東京成徳大教授。実家が真言宗のお寺で住職も務めた。
氏のゴルフ界との関わりは1981年、小誌(週刊ゴルフダイジェスト)に「ゴルフとメンタル」的コラムをお願いしたことから始まった。最初の打ち合わせに新宿にあったピアノバーを指定され、当方も同行した。訊けば氏はクラシックに精通し、特にモーツァルトに耽溺していると。大学教授として教鞭をとり、住職としてお経を唱え、クラシックに聴き入るそのアンバランスさに驚き、そして穏やかで偉ぶりがまったくない教授らしからぬ人柄も当方たちを魅了した。
氏がゴルフ界に現れてから「スポーツ心理学」「運動生理学」「メンタル」などの言葉が盛んに使わられるようになったと思う。1985年に発足したPGA(日本プロゴルフ協会)の「インストラクター資格認定制度」は当時の浅見勝一会長の熱意によって実現したが、それを強力にサポートしたのも市村氏だった。同制度の基準になったのは、小社ゴルフスクールで使っていた教則本(メソッド)だったが、その運動生理学部門は氏が制作した。
「同制度が承認された時には涙を流して喜んでいました」とは長女の市村まやさん。彼女は小社に勤め、スコットランドのセントアンドリュース市に住んだこともある。著書に『勝つためのゴルフの心理学』(、研究所)、『トップアスリーツのための心理学』(同文書院)、『市村教授&金谷プロ頭の中で上手くなる思考のゴルフ』(永岡書店)など。小社では『セントアンドリュース&ジ・オープン』(デビッド・ジョイ著)の翻訳を担当し、自身R&Aニューコースの会員でもあり、後書きではリンクスへの思いを熱く語っている。
最後の行に「ゴルフをやっていて、ほんとうによかった」とつづった。自身のゴルフではHC8~9のシングル。ホールインワンも達成しているが「人にわざわざ言うことではないと派手なことや、うわついた態度がまったくない人でした」とまやさん。
ゴルフを真正面から愛した昭和の知識人であった。
合掌(特別編集委員 古川正則)
※週刊ゴルフダイジェスト2026年2月17日号「バック9」より
