2番ホール、悪夢の「グキッ」
悲劇はスタート直後に起きた。首位で迎えた2番ホール。フェアウェイからのセカンドショットは、ボールが足元より低い「つま先下がり」のライだった。クラブを振り抜いた瞬間、トムズの腰に電流が走った。
「背中(腰)がいってしまった」
それ以降、彼のゴルフは変貌した。
「7番アイアン以下の短いクラブならなんとかなる。でも、ドライバーや長いクラブを持つと、インパクトで体がすくんでしまうんだ」
スウィングのたびに走る激痛。本来なら棄権してもおかしくない状況だ。しかし、この日のフロリダに吹き荒れた強風が、皮肉にも彼を救うことになる。
「もし無風なら、優勝するには5つも6つも伸ばさなきゃいけない。でもこの風だ。みんな苦しんでいる。パーを拾い続ければチャンスはある」
痛みに耐え、歯を食いしばるサバイバルゴルフ。それを支えたのは、長年連れ添ったキャディ、スコット・グナイザーの存在だった。
アーニー・エルスに“貸し出し”ていた相棒のために
トムズとスコットの間には、多くを語る必要のない信頼関係がある。昨年末、トムズが持病の腰痛でツアーを離脱していた間、スコットはアーニー・エルスのバッグを担いでいたという。
「僕の背中のせいで、彼には苦労をかけた。彼が戻ってきてくれた復帰戦で、彼のために勝つことができて本当に良かった」
痛みに顔を歪めるトムズを見ても、スコットは動じない。状況を理解し、あえて何も言わずに淡々とクラブを渡す。その無言の連携が、崩れそうなトムズのメンタルを支え続けた。
18番バンカー、プロの技「チャンク&ラン」

18番ガードバンカーで見せた「チャンク&ラン」でD・トムズは見事バーディフィニッシュ(PHOTO/Getty Images)
首位タイで迎えた最終18番。トムズのセカンドショットはグリーン左のバンカーへ。しかも、またしても「つま先下がり」のライだ。腰に爆弾を抱え、痛みで体がすくむ状態では、最も避けたいシチュエーションである。
ここでトムズが選択したのは、華麗なスピンショットではない。彼が「チャンク&ラン(chunk and run)」と呼ぶ、泥臭い一打だった。
「手前の砂を厚く取って(ダフらせて)、あとは転がすだけさ。神経質になる場面では、こういうショットが一番頼りになるんだ」
【動画】これがシニアの技! D・トムズが18番で見せたチャンク&ランのバンカーショット【PGAツアーチャンピオンズ公式X】
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x.com砂と共に放たれたボールは、コロコロとピンに寄り、タップインできる位置に。この短いバーディパットを決め、通算13アンダー。連覇を目指したジャスティン・レナードら2位とは1打差をつけての薄氷の勝利だった。
「娘には『アーカンソーの鴨狩りからオクラホマの鴨狩りに変えたから勝てたんじゃない?』なんて言われたよ」
会見でそう明かしたトムズ。「ゴルフの腕前じゃなくて、ただの気分転換のおかげでしょ?」という娘なりの愛あるイジりに、彼は苦笑いを浮かべた。その笑顔の裏には、老いと怪我、そして自然との闘いを制した者だけが知る、深い充足感が漂っていた。
