シンガポールのセントーサGCに今年も女王たちが集結した。ネリー・コルダを除く世界ランキングトップ10が揃って顔を揃える「HSBC女子世界選手権」。「アジアのメジャー」と称されるこの大会のフィールドは、今年も圧倒的な熱気を帯びている。だが、今週の練習場に漂う空気は、息を呑むような緊迫感よりも、どこか洗練された「軽やかさ」に満ちていた。その中心にいるのは、先週の「ホンダLPGAタイランド」で悲願の地元優勝を成し遂げたばかりの世界No.1、ジーノ・ティティクルだ。

「50%の出来でも、勝つことはできる」

画像: 2週連続優勝に挑む世界No.1のジーノ・ティティクル(写真は25年ホンダLPGAタイランド、撮影/姉崎正)

2週連続優勝に挑む世界No.1のジーノ・ティティクル(写真は25年ホンダLPGAタイランド、撮影/姉崎正)

ジーノが会見で放った言葉は、完璧を追い求めるすべてのゴルファーにとって驚きを持って受け止められるだろう。

「先週の私のゴルフは、ショットの出来で言えば50%から60%に過ぎませんでした」

世界ランキング1位の座を確固たるものにしようとしている女王は、ゴルフというゲームにおいて「完璧」を放棄していたのだ。

「19歳の頃の私は、ミスショット一つで自分を責め、物事を深刻に捉えすぎていました。でも今は違います。悪いショットを打っても『大丈夫、次がある』と思えるんです。ナーバスになることを受け入れ、その中でどう踊るかを考えています」

彼女が使った「Dance in the rain(雨の中で踊る)」という詩的な比喩。それは、困難な状況を力でねじ伏せるのではなく、その状況の不完全さごと楽しみながらプレーするという、現代女子ゴルフにおける究極のメンタリティを象徴している。

「過去を手放す」イン・ルオニンと、貫かれるチャーリー・ハルの「矛」

この「完璧主義からの脱却」という哲学は、他のトッププレーヤーたちにも波及しているようにみえる。メジャー覇者でもあるイン・ルオニンも、かつての自分をジーノに重ね合わせてこう語った。

「私も昔は、ミスショットに対してすごくネガティブだった。でも大人になるにつれて、すべてが思い通りにはいかないと気づいたんです。一打打てば、そのショットはもう過去のもの。過去に足を引っ張られず、『今、この瞬間』を生きるようにしています」

一方で、己のプレースタイルを研ぎ澄まし、鋭い「矛」としてセントーサに挑む者もいる。世界ランク3位に浮上したイングランドのチャーリー・ハルだ。彼女は持ち前の“当たって砕けろ”のアグレッシブなスタイルを変えるつもりはない。

「このコースはアグレッシブに行けるホールがある。それを見極めるのが楽しい」と、タフなセッティングを前にしても不敵な笑みを崩さない。「ランキングの数字は見ない。ただゴルフをするだけ」と語る彼女の純粋な闘争心は、大会にスリリングなスパイスを加えている。

地元の星、シャノン・タンの誇り

そして、シンガポール国民の熱い視線を一身に浴びるのが、地元が誇る若きプロゴルファー、シャノン・タンだ。 かつては一人の少女として、ギャラリーのロープの外から憧れの瞳でこの大会を見つめていた。しかし今や彼女は、欧州女子ツアー(LET)の顔の一人として、堂々とトッププロたちと同じ舞台に立っている。

「子供の頃に見上げていた選手たちと同じフィールドに立てるなんて、本当に意味のあることです。まだリディア・コーのような選手を見ると圧倒されることもあるけれど、ホームのファンの前で、この素晴らしいメンバーの中でプレーできることが純粋に楽しみです」

先週、タイでジーノが成し遂げた「母国での戴冠」は、間違いなくシャノン、そしてアジアの若き才能たちに強烈なインスピレーションを与えているはずだ。

アジア・スウィングの第2戦。ここは、単なるゴルフの大会ではない。重圧の中で踊ることを選んだ世界No.1、過去のミスを引きずらない境地に至った実力者たち、そして地元ファンの夢を背負う若き才能。それぞれが磨き上げた「哲学」が、熱帯のシンガポールの空気と混ざり合い、最高純度のドラマを紡ぎ出そうとしている。

不完全な自分を愛し、勝負のプレッシャーの中で最後まで踊り続ける者――。日曜日の夕刻、セントーサの18番グリーンで最後に微笑むのは、果たして誰か。


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