「手負いの猛獣ほど恐ろしいものはない」。勝負の世界で語り継がれるこの格言が、今の彼女たちにぴったり当てはまるかもしれない。「HSBC女子世界選手権」3日目を終え、首位とわずか1打差の通算10アンダー、3位タイにつけるユ・ヘラン(韓国)とエンジェル・イン(米国)。リーダーボードの好位置につける二人だが、実は共に万全とは程遠い、トラブルを抱えた“満身創痍”の状態なのだ。

「怪我の功名」ユ・ヘランの究極のシンプル思考

画像: 首位と1打差の3位タイにつけるユ・ヘラン(写真は24年TOTOジャパンクラシック、撮影/大澤進二)

首位と1打差の3位タイにつけるユ・ヘラン(写真は24年TOTOジャパンクラシック、撮影/大澤進二)

「首が痛くて、全く回らないんです。とても辛い状態です」

ユ・ヘランは顔をしかめながらそう語る。ゴルファーにとって、首が回らない痛みがどれほどスウィングに悪影響を及ぼすかは想像に難くない。しかし、彼女はこの3日間で叩いたボギーの数がフィールド最少の「3つ」という、驚異的な安定感を誇っている。

なぜ、痛みを抱えながらこれほどのプレーができるのか。それは、怪我がもたらした「思考のシンプル化」にある。

「首が痛いからこそ、余計なことは考えず、ただアイアンとドライバーを真っすぐ打つこと、フェアウェイとグリーンを捉えることだけに集中できているんです」

さらに、首位を1打差で追う現在のポジションについても「1打差で追いかける立場のほうが、プレッシャーが少なくて良い場所にいると感じる」と、どこまでも強気だ。

「10ドルの相棒」エンジェル・インの泥臭い執念

画像: ユ・ヘランと同じく首位と1打差の3位タイにいるエンジェル・イン(写真は25年ホンダLPGAタイランド、撮影/姉崎正)

ユ・ヘランと同じく首位と1打差の3位タイにいるエンジェル・イン(写真は25年ホンダLPGAタイランド、撮影/姉崎正)

もう一人の追走者、エンジェル・インの身体も悲鳴を上げている。 「フィジオ(トレーナー)の治療がなければ、歩くことすらできない状態」というほど、全身の筋肉が極度に張り詰めているのだ。過酷な暑さが筋肉の緊張をわずかに和らげているものの、薄氷を踏むようなコンディションでの戦いが続いている。

おまけに、彼女は大会中に愛用のサングラスを紛失するという不運にも見舞われた。「昨日、急遽10ドル(約1500円)でこのサングラスを買ったの。見た目はどうあれ、耐久性があって目を日差しから守れれば十分よ」と笑い飛ばす。満身創痍の身体に、10ドルの即席サングラス。華やかなトッププロのイメージとは裏腹な泥臭さが、今の彼女の武器だ。

「日曜日に勝つために必要なのは、良いゴルフと『運(luck)』。信じられないような寄せワンが決まるのも、技術と運の両方があるから。あとは幸運を祈るだけね」

怪我による制約を「集中力」に昇華させたユ・ヘランと、限界の肉体で「運」を引き寄せようとするエンジェル・イン。決して万全ではないからこそ、彼女たちが放つ気迫は不気味なほど研ぎ澄まされている。最終日のセントーサに、手負いの追走者たちが波乱を巻き起こす予感が漂っている。


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