「デジタル化やエンターテインメントが多様化する現代において、今の男子ツアーは現状維持にとどまっています。ファンの皆さんとの距離が開き、熱狂や感動を社会に届けるための推進力が不足している。このままではいけないという危機感を抱いておりました」と語ったのはJGTOの倉本昌弘副会長だ。この言葉は、男子ゴルフ界が長年抱えてきたジレンマを的確に突いていた。選手がスーパーショットを放っても、それを伝える「手段」と、現場で楽しむ「環境」がアップデートされていなければ、ファンには届かない。地上波テレビ中継の枠は減少し、コアなファン層の高齢化が進む中、日本男子ゴルフは「見せ方」において完全に後れを取っていたのだ。新組織「J-Tour」と投資ファンド「NSSK」が仕掛ける150億円の構造改革。第3回となる今回は、彼らが最も注力する「視聴・観戦エンゲージメントの最大化」、すなわちメディア戦略と現地観戦の劇的なアップグレードに迫る。

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「全ショット見える化」と「Netflix風ドキュメンタリー」の衝撃

「スポーツはコンテンツだ」

NSSKの津坂純社長は、極めてドライに、しかし熱量を持ってそう断言した。

「プロのアスリートたちが主人公で、彼らがゴルフに懸けるヒューマンストーリーなんです。失敗を教訓としてより良い結果を出していく。そういうコンテンツをガンガン作っていきましょう、というのがJ-Tourの1つの大きな仕事です」

その核となるのが、巨額の資金を投じて構築される「メディアセンター」とデータ基盤だ。NSSKの徳山一晃シニアパートナーは、日本のゴルフファンが長年渇望していた未来図を提示した。

「積極的な投資を含めて、今後、ネット配信などを含め、いつでもどこでもコンテンツを視聴できるインフラを整備します。そして、過去のライブラリーを十分に活用し、選手の『全ショットの見える化』など、いつでもどこでも見たいものを見れるインフラ整備が重要です」

画像: 徳山一晃シニアパートナーはメディアの活用が大事と力説する

徳山一晃シニアパートナーはメディアの活用が大事と力説する

さらに徳山氏が「目指す姿」として掲げたのが、「全大会の地上波放送」という野心的な目標だ。「非常にお金のかかるチャレンジ」と認めつつも、地上波放送の復活と全大会のネット配信を両輪で模索していくという。

PGAツアーでは当たり前となっている、推しの選手の全ショットを動画と3Dデータで追跡できるシステム。これが日本ツアーにも導入されるとなれば、観戦スタイルは一変する。飛距離やスピン量などのデータをマイニングし、マニアックな視点からゴルフを楽しむ新たなカルチャーが生まれるだろう。

さらに、彼らが仕掛けるのは「ライブ中継」だけではない。

「Netflixのドキュメンタリーなどは非常に面白いストーリーになっていますけれども、男子ゴルフでも同じようなストーリー作りを積極的に展開させていただきます。トーナメントの裏側や、複数シーズンにわたるドラマ、ワクワクする魅力的なお話を発信できればと考えております」(徳山氏)

PGAツアーの裏側に密着したNetflixのドキュメンタリー『フルスイング』は、ゴルフファン以外の層も巻き込み、世界的な大ヒットを記録した。一人の選手の挫折と栄光、キャディとの衝突、家族との絆。点と点の試合結果ではなく「線」としてのドラマ(ヒューマンストーリー)をYouTubeやSNS、動画配信プラットフォームで投下し続けることで、新たな熱狂層を開拓する狙いだ。

お祭りとVIP体験。観戦を「非日常のエンタメ」へ

デジタル上での変革と同時に、現場(トーナメント会場)での体験価値も劇的に引き上げられる。

「ファンが興味なければ、スポンサーもつく理由がない。改革の肝になるのが、エンゲージメントの仕方を変えることです」と津坂氏は語る。

J-Tourが描く現地観戦のアップグレードは、大きく分けて2つのベクトルを持つ。ひとつは「一般・ファミリー層向け」のお祭り空間への転換だ。

「年に一度、家族や友人、地元の企業が集まっていただけるような、地域密着型のイベントとして盛り上げたい」(徳山氏)

津坂氏も、ニュージーランドオープンの事例を挙げ、「ゴルフをしない人たちも大会に行って、地元の人たちが盛り上がる。まさに全員参加モデルです」と理想像を語る。

もう一つが「VIP・法人向け」の超上質なホスピタリティの提供だ。これまでのプロアマ戦やテント観戦を一新し、スポンサー企業が大事な顧客を接待したくなるような「特別な体験」を創出する。

「スペシャルグルメや、そこでしか体験できないラウンド観戦、解説者による解説などをご用意します」と徳山氏が話せば、津坂氏も、「スポンサーの皆様が『やっぱり最高だよね!』と言っていただけるような場を提供します」と同調する。

さらに、既存の72ホールのストロークプレーにとらわれない、新しいフォーマットの大会も画策されているという。

「ライダーカップのような団体戦や、有名プロと有名アマチュアの試合、スタジアムでのイベントなど、新しい形でのエキサイトメントを提供できれば」(徳山氏)

2027年の「6つのショーケース」と、未来への助走

とはいえ、これほど巨大な改革が明日から一気に実現するわけではない。旧態依然としたシステムを変えるには時間がかかる。そこでJ-Tourは、2027年からの本格稼働に向け、今年(2026年)を「戦略的な準備期間」と位置づけた。

注目すべきは、来年開催される「6つのショーケース大会」だ。JGTOおよび選手会主催の3大会、J-Tourが新たに主催する2大会、そして既存の主催者から依頼を受けた1大会。この6試合を実験場(ショーケース)として、ファンエンゲージメントや最新の撮影機材、ホスピタリティのベストプラクティスを試験的に導入し、成功例を他の既存大会へ波及させていくという。

見えない場所から、すべてが見える場所へ。データと映像、そして極上のリアル体験を掛け合わせることで、日本の男子ゴルフは「一部の愛好家のスポーツ」から「誰もが熱狂する巨大エンターテインメント」へと脱皮しようとしている。

※第4回(最終話):【スポンサー・社会貢献編】「みずほFGはなぜ『男子ゴルフの夢』を買ったのか。47都道府県を巻き込む、壮大な地方創生プロジェクト」へ続く

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