「このプロジェクトが立ち上がるにあたりまして、実は社内調整は決して楽ではなかったんですけれども、身の引き締まる思いでおります」。株式会社みずほフィナンシャルグループの常務執行役員足立龍生氏は、記者会見の壇上で静かに、しかし深い感慨を込めてそう語った。 低迷が叫ばれ、変革の痛みを伴う過渡期にある日本男子ゴルフツアー。そのツアータイトルスポンサーという巨大なリスクと責任を伴うポジションに、日本を代表するメガバンクが就任するというニュースは、経済界をも驚かせた。J-TourとNSSKが仕掛ける150億円規模の構造改革に、なぜ巨大金融機関は巨額の資金を投じ、「夢」を買う決断をしたのか。 連載の最終回となる第4回は、スポンサーシップの意義と、男子ゴルフが秘める「地方創生」という強大な社会的価値に迫る。

▶【第1回】「男子ゴルフに150億円投資で事業を分離! NSSKが描く1.4兆円市場の目覚めから読む
 
▶【第2回】「自腹撤廃から世界へ! 選手会も歓喜するJ-Tour設立とプロのリアルから読む
 
▶【第3回】「目標は全試合地上波! 全打データ化で未体験の熱狂と新たなファン体験から読む

「10分くらい泣いた」大企業の決断と、ゴルフの社会的価値

NSSKの津坂純社長は、みずほFGの参画が決まった瞬間の興奮を隠そうとしなかった。

「私は足立常務から参加するという情報をいただいた時は、10分くらい泣いてましたね。まだ何もない、夢はこれから実現する段階で、この夢を買っていただいたことが本当に嬉しい。銀行全体でこれを支援するというのは、大変素晴らしい決断だと思っています」

ビジネスの冷徹な世界を生き抜いてきた投資ファンドのトップを泣かせるほど、みずほFGの決断は重かった。足立常務が「社内調整は楽ではなかった」と語る通り、旧来の費用対効果(露出効果)だけで考えれば、決して簡単な稟議ではなかったはずだ。

画像: 27年からタイトルスポンサーになる、みずほフィナンシャルグループの常務執行役員足立龍生氏(右)の話を聞くNSSK社長・津坂純氏(左)(オフィシャル提供写真)

27年からタイトルスポンサーになる、みずほフィナンシャルグループの常務執行役員足立龍生氏(右)の話を聞くNSSK社長・津坂純氏(左)(オフィシャル提供写真)

では、みずほFGは何に共鳴したのか。それは、単なるスポーツ協賛を超えた、「日本社会の課題解決」という壮大なビジョンだった。

「我々みずほフィナンシャルグループは、パーパスとして『ともに挑む。ともに実る。』を掲げています。国内男子ゴルフツアーを世界基準のスポーツエンタメ事業に昇華させるという、JGTOやNSSKの『日本の男子ゴルフツアーはまだまだこんなものじゃない』という熱い思いに共感しました」(足立常務)

そして、彼らを動かしたもう一つの巨大なポテンシャルが、ゴルフというスポーツが持つ無二の「地域性」である。

2500のコースと、地方創生の巨大なエンジン

津坂社長は、日本のゴルフ界が持つ最強の武器についてこう力説する。

「ゴルフのいいところは、場所に制約がないことです。日本には2500ものコースがあって、全国でプレーできるし、トーナメントも開催できる。全国でこの日本男子ツアーをお届けできる素晴らしいスポーツです」

野球やサッカーのように、特定のスタジアムを持つ本拠地(フランチャイズ)に依存するスポーツとは異なり、ゴルフツアーは毎週、全国各地のゴルフ場を巡業する。これが意味するものは極めて大きい。

「日本の1つの大きな課題は『地域活性化』です。東京、大阪、名古屋だけ元気になってもダメですよね。日本全国を元気にするためには、この男子ツアーの資源のパワー、大会のファンやスポンサーの魅力を高めることによって、日本を元気にすることができるんじゃないかという大きな目標を持っています」(津坂社長)

地方のゴルフ場に数万人のギャラリーが訪れ、地元のホテルが潤い、特産品が売れ、雇用が生まれる。男子ツアーの価値が向上し、大会が「地域の一大フェスティバル」として機能するようになれば、それは最強の「地方創生のエンジン」となるのだ。

このビジョンこそが、みずほFGの全国ネットワークと完璧にリンクした。

画像: 47都道府県すべてに拠点のある唯一の金融機関であるみずほFGが国内男子ツアーと組むことのメリットを語る足立常務(オフィシャル提供写真)

47都道府県すべてに拠点のある唯一の金融機関であるみずほFGが国内男子ツアーと組むことのメリットを語る足立常務(オフィシャル提供写真)

「単なる協賛にとどまらず、47都道府県すべてに拠点のある唯一の金融機関として、何ができるのかを考えながら、一緒にこの改革に取り組ませていただきたい。日本の社会に対して希望をもたらす取り組みになるように一翼を担いたい」(足立常務)

「大人になったらプロゴルファーに」——終わなき挑戦の始まり

JGTOの諸星裕会長は、新体制の意義を「官民、そして経済界との連携を深め、ゴルフを通じた社会への価値貢献を最大化してまいります」と総括した。競技を管理するJGTO、事業をドライブするJ-Tour(NSSK)、そして全国の地域経済をバックアップするみずほFG。三位一体となったエコシステムだ。

もちろん、改革の道のりは平坦ではない。津坂社長が語る通り、大人の泥臭い戦いはこれからだ。

「スポンサー獲得の営業、KPIの設定、営業資料の作り方、どういう訴え方をするか。みずほ銀行様だったらこう話さないといけないし、住友ゴム様だったらまた違う説得をしなければならない。そういう細かいマニュアル化、成功の仕組みづくりが重要になります」

華やかな青写真の裏で、地道で過酷な「稼ぐためのシステム構築」が始まっている。スター選手は、一朝一夕には生まれない。しかし、選手が躍動し、ファンが熱狂し、スポンサーが価値を感じ、地域が潤う「正しい仕組み」さえ完成すれば、結果として必ず無数のスターが誕生する。

「最後には、子どもたちが憧れる職業になるように。『大人になったらプロゴルファーになりたい』『ゴルフ産業に関わりたい』という夢のある産業にしていきたいです」

会見で津坂社長が語ったこの言葉こそが、150億円の構造改革が目指す最終地点だ。大きな改革へと舵を切った日本男子ゴルフ。その挑戦の行方を、我々はこれから目撃することになる。

(連載完)

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