劇的な幕切れとスパーンの復活
テキサス州TPCサンアントニオで行われた最終日。最高気温は17度(華氏64度)にとどまり、最大風速10m/sを超える冷たい強風と断続的な雨が選手たちを苦しめる過酷なコンディションとなった。その中、J.J.スパーンは「67」の好スコアをマークし、通算17アンダーでホールアウトした。
後続のマット・ウォレス、マイケル・キム、ロバート・マッキンタイアの猛追を受ける中、スパーンはスコアリングテントで戦況を見守っていた。マッキンタイアがイーグルを奪った瞬間、スパーンはプレーオフを覚悟して練習場へと向かった。しかし、1打のリードは最後まで守り抜かれた。しびれるような逃げ切りで、35歳のスパーンは2022年の同大会、そして昨年の全米オープン(オークモント)に続くツアー通算3勝目を飾った。
【動画】ロバート・マッキンタイアが17番でイーグルを決める【PGAツアー公式X】
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x.comメジャー王者としての「呪縛」と負のスパイラル
華やかな復活劇の裏には、想像を絶する苦悩の道のりがあった。昨年の全米オープンでメジャー初制覇を成し遂げたスパーンだったが、その偉大な栄光は、いつしか彼自身を縛り付ける重い鎖となっていた。
「全米オープンなどのメジャーで勝つと、それに伴う多くのプレッシャーや期待が生じます。今年に入って、私は自分自身に多大なプレッシャーと期待をかけてしまっていました」
メジャー王者としてのプライドが、彼を完璧主義へと駆り立てた。
「自分が世界で6番目に優れたプレーヤーである以上、毎週のように優勝争いをしなければならないと感じていました。完璧なゴルフスウィングを持ち、すべてを完璧にこなさなければならないと」
その思い込みは、スウィングの過度な改造を招き、本来の強みであったはずのショートゲームやパッティングをおろそかにさせてしまった。結果として今シーズンは序盤から3、4回の予選落ちを喫するなど、「ゲーム全体がめちゃくちゃな状態」という深い“負のスパイラル”へと陥っていたのだ。
ザ・プレーヤーズ選手権での気付きと「手放す」勇気
暗闇の中でもがいていたスパーンに転機が訪れたのは、数週間前の「ザ・プレーヤーズ選手権」だった。彼は、自分を縛り付けていた過度なプレッシャーを手放す決意をする。
「昨年の1年間、私を支えてくれた『失うものは何もない』というマインドセットに戻ろうと努めました。精神的に自分を解放しようとしたのです」
そして迎えた思い出の地、サンアントニオでの一戦。今週、彼が自らに課した最大の戦略は、非常にシンプルなものだった。それは「負のスパイラルに陥らないこと」。
「トーナメントに勝つために、必ずしも『Aゲーム(完璧な状態)』である必要はないんです。トップ選手たちがいつも言っていることですが、今週の私はまさにそれでした。自分のAゲームではありませんでしたが、今ある自分の状態を受け入れ、ただボールをカップに入れることだけを考えました。結果がどうであれ、それを受け入れて次に進むだけだと」
完璧を求めることをやめ、ありのままの自分のゴルフを受け入れた瞬間、スパーンの持ち味である勝負強さが蘇ったのである。
家族との喜び、ありのままの自分への誇り

この日誕生日を迎えたキャディのマーク・カレンス、スパーンの妻・メロディさんと(PHOTO/Getty Images)
冷たい風が吹き抜けるサンアントニオで、スパーンは愛する妻たちと熱い抱擁を交わした。昨年の全米オープン制覇の際も家族は共にいたが、2022年に彼がこのバレロテキサスオープンでツアー初優勝を飾った時、一番下の娘はまだこの世に生を受けていなかった。
「家族全員がここにいてくれることは本当にクールなことです。成功した週であってもなくても、彼らが一緒にいてくれることは常に特別なことですから」
家族の温かな眼差しの中で掴み取った3勝目は、スパーンにとって単なる1勝以上の意味を持っていた。それは、メジャー王者の重圧という見えない敵に打ち勝った証でもあった。
「完璧でなくても、必要な瞬間に狙ったショットを打てたことを誇りに思います。自分のゴルフスウィングやメンタルがどのような状態であれ、重要な場面でやり遂げることができた。それこそがすべてです」
【動画】優勝が決まった瞬間、この日誕生日だったキャディに祝福した【PGAツアー公式X】
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x.com完璧じゃなくても、勝てる。呪縛から解き放たれ、本来の自由な心を取り戻したJ.J.スパーン。愛する家族と共に歩む彼の次なるストーリーが、今から楽しみでならない。

