オーガスタの女神は、時に残酷なまでに「経験」の差を突きつける。完璧なスタートを切りながら、たった一つのショットからオーガスタ洗礼を受けた片岡尚之。一方で、シビアなコンディションを「規定演技」のように乗り切った松山英樹。プロコーチ・横田英治の視点を通し、オーガスタに潜む魔物の正体に迫る。

最高の滑り出しから一転、暗転の3番ホール

片岡のスタートは、これ以上ないほど完璧だった。1番(パー4)でフェアウェイバンカーからのピンチをしのいでパーセーブすると、2番(パー5)では6メートルのバーディパットを沈め、幸先よくスコアを伸ばす。現地でプレーを見守った横田英治プロは、この立ち上がりを評価した。

画像: 1番ホールの片岡のティーショット。「初メジャーでも緊張はしていませんでした」(片岡)

1番ホールの片岡のティーショット。「初メジャーでも緊張はしていませんでした」(片岡)

「1番をアプローチでしのいだことで、2オン2パットのパーよりも精神的な余裕が生まれたと思います。最高のスタートでした」

しかし、運命の3番(パー4)。完璧なティーショットでフェアウェイセンターをとらえ、残りは120ヤードほど。片岡自身が「感覚的にはピンぴったり、バーディチャンスについたと思った」と振り返るほどの手応えを感じた2打目は、キャリーで20ヤード以上ショートした。ボールは無情にも傾斜を滑り落ち、結果は4オン2パットのダブルボギー。片岡はインタビューで「30ヤード手前に戻された。フェアウェイからのダボは、精神的にかなりダメージがきました」と、その衝撃を隠せなかった。

経験の差が出た3番の攻め方

この3番ホールで、松山英樹との「経験の差」が鮮明になったと横田プロは分析する。

「松山選手のティーショットは、奇しくも片岡選手とほぼ同じ位置でした。しかし、直線的にピンを狙った片岡選手に対し、松山選手はピンの10ヤード右にオンさせ、そこから傾斜で寄せていくマネジメントを見せました。3番の左手前はショートすれば下まで落ちる急傾斜。バーディチャンスにつけるべく攻めた片岡選手と、十分すぎる保険をかけて右を狙った松山選手。この判断の違いが、その後の展開を大きく左右したと見ています」

打ちのめされたバック9

3番以降、片岡のリズムは微妙に狂い始める。前半こそ2オーバーで耐えたものの、後半の10番ではティーショットが木の真裏に止まる不運に見舞われる。さらにスコアを伸ばしたい後半のパー5。13番では左のクリーク、15番は池につかまりダブルボギーを叩くなど、後半だけで10オーバーを喫した。

片岡はインタビューで、「なぜショットが曲がったのか、その理由がよくわからない」と困惑を見せた。

あまりに過酷な初体験に「打ちのめされた」若武者。しかし、これこそがオーガスタの洗礼なのだ。

松山英樹が見せた「規定演技」

一方で、松山英樹はイーブンパーの17位タイと、静かに、かつ堅実に初日を終えた。

画像: 12番のパー3でも確実にピンの左に乗せた松山

12番のパー3でも確実にピンの左に乗せた松山

グリーンの硬さと速さが増すシビアなコンディションの中、5番や14番で「入ったのが大きかった」と語るボギーパットを沈めてしのいだ松山。「あのパットが残るようじゃしんどいゴルフ」と言いつつ、15番パー5ではグリーン奥からのアプローチを決め、バーディを奪い返した。本人は「14番でアプローチが全部壊れた」と厳しい自己評価を下しているが、表情は意外にも明るかった。

横田プロは、松山のプレーを「規定演技」と表現する。

画像: 「14番でアプローチが壊れた」という松山だがイーブンパーにまとめた

「14番でアプローチが壊れた」という松山だがイーブンパーにまとめた

「オーガスタを知り尽くした選手は、『ここに打て』というコースの声に応えるように決まったルートをなぞる。松山選手もしかりです。迷いなくクラブを抜く判断の早さは、まさにコースを熟知しているからこそ。そして今日は頻繁に木々の先をきょろきょろと見上げ、向きが不規則に変わる風の情報を敏感に察知しようとしていました。そのあたりの風に対する神経の使い方もまた経験でしょう。本人的にはスコアがもう少し悪くてもおかしくなかったと感じていたからこそ、イーブンパーでも一定の満足感があったのかもしれません」

ほろ苦いデビューとなった片岡尚之だが、彼が感じた「魔物」の正体は、この地を経験した者にしか分からない財産でもある。一方の松山は、耐えながらも必ず訪れるチャンスを伺っている。

画像: 後半ショットが乱れた片岡。「曲がる理由がわかりません」

後半ショットが乱れた片岡。「曲がる理由がわかりません」

「明日はいい状態でプレーできるように頑張りたい」と語る松山に対し、絶望感を口にした片岡がどう気持ちを切り替えてくるのか。オーガスタの空の下、二人の日本人の戦いは続く。

PHOTO/Yoshinori Iwamoto

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