今年のマスターズは、片岡尚之が前年の日本オープンチャンピオンという新たな資格で参加。そして松山英樹は、パストチャンピオンのほか複数の権利で15回目となる出場を果たした。彼らの挑戦はプロの目にどう映ったのか。現地で2人を追跡した2025年レッスン・オブ・ザ・イヤーの横田英治プロに解説してもらった。

難しい状況ほど力を発揮するのが松山英樹の真骨頂

前回の記事でも書きましたが、松山英樹選手には、もはや「日本のエース」という表現は当てはまりません。「世界の超一流選手の一角」というのが世界的な評価なのだと、改めて認識しました。まずは、その松山選手から振り返ります。

世界の超一流選手というのは、あらゆるスキルが非常に高いことは前提として、その中に飛び抜けて強い武器を持っています。スコッティ・シェフラーであれば難しい状況からでもピンに絡めるアイアンショット、ローリー・マキロイであれば圧倒的な飛距離のドライバーというように。松山選手で言えば、それが卓越したアプローチ技術であることは周知の事実です。マキロイも認め、ライバルたちも思わず注目してしまうほどの技術力を持っています。

今年は5アンダーの12位タイ。本人にとっては、決して満足のいく結果ではないでしょう。その要因は、流れを作っていける武器であるアプローチが、本来の輝きを発揮しきれなかったことにあります。「たられば」になりますが、もしアプローチがいつも通りの状態なら、間違いなく優勝争いをしていたはずです。それくらい、他の部分はライバルたち以上の力を出していました。

印象的だったのは、最終日の4番ホール、240ヤードのパー3です。おそらく4番アイアンで打ったティーショットは、まるで7番アイアンかと思うほど高く、スピンの利いた高弾道で真っすぐピンに重なっていきました。全員を見たわけではありませんが、あのフィールドの中でも、これほどの高弾道ロングアイアンを打てる選手はめったにいません。

アプローチで波に乗れなかったと言いましたが、そんな中でも、同じ最終日の3番ホールでは凄みを見せました。グリーン手前から強烈な上り傾斜があり、そのすぐ先にピンがあるという超難易度の高い状況。傾斜にワンクッション、ツークッション入れなければ寄る確率は極めて低いのですが、そこを見事にコントロールして、オッケー距離に寄せるバーディを奪ったのです。あのアプローチもまた「松山選手にしか打てない」と思わせるものでした。

画像: 並外れた努力でライバルも賞賛する技術を身につけた松山

並外れた努力でライバルも賞賛する技術を身につけた松山

4番のショットも3番のアプローチもそうですが、松山選手は極めて難しい状況を迎えると、誰よりも高い集中力を発揮して、奇跡的な一打を繰り出す能力を持っています。もちろんオーガスタにやさしい状況などありませんが、それだけに「松山選手なら難なく寄せるだろう」と思える箇所での取りこぼしがあったのは、非常にもどかしかったはずです。

恵まれた体格や筋力が注目されがちですが、あの高い技術力、そしてそれをマスターズという最高峰の舞台で発揮できる力こそが、彼の真骨頂。その裏には想像を絶する練習量があることは、想像に難くありません。松山選手を見れば見るほど、彼に続く日本人が現れるのか、10年単位でマスターズに連続出場できる選手が生まれるのか……。正直、今はまだ想像がつきません。

片岡選手には自分の強みを伸ばしてほしい

一方、日本オープン優勝者という新たなカテゴリーによって出場した片岡尚之選手。本人曰く「プロ入りワースト」という84を初日に叩き、2日目は75と踏ん張ったものの、ほろ苦いマスターズデビューとなりました。それでも「また来年チャンスをつかんで帰ってきたい」と前を向く姿勢には期待したいです。

画像: チャンスを生かしてまたここに来年帰って来たいという片岡

チャンスを生かしてまたここに来年帰って来たいという片岡

今回、現地で見て感じましたが、やはりオーガスタは「風とグリーンのコース」です。ここを攻略するには、一度や二度の経験では難しいということがはっきりと分かりました。やはり経験がものを言うコースなのです。そして、世界ランキング50位以内に入ったうえでここに挑むのが、やはり理想的でしょう。つまり、PGAツアーやDPワールドツアーで戦った結果として出場権を得る。それを5回、6回と繰り返すことで、ようやくオーガスタで好成績を残す可能性が出てくるのだと思います。厚い壁に跳ね返された形となった片岡選手には、ぜひそこを目指してほしいです。

また片岡選手は「飛距離が足りない。もっと飛ばす努力をして戻ってきたい」とも話していたようです。もちろん飛距離も必要かもしれませんが、私は「自分の武器をさらに伸ばす」という選択肢もありだと思います。片岡選手のゴルフを見て、正直スコアほどの差は感じませんでした。では、なぜあのスコア差になったのか。そこを突き詰めることに意味があるはずです。

画像: 巧みなショートゲームを武器に戦うB.ハーマンもマスターズの常連

巧みなショートゲームを武器に戦うB.ハーマンもマスターズの常連

例えば、今回8回目の出場となったブライアン・ハーマン。ひと際小柄で飛距離では後れを取りますが、ショットの正確さと巧みなショートゲームで、今年も33位タイ(イーブンパー)で終えています。彼は自分の強みを見つけ、そこを突き詰めた結果として戦えているのです。片山晋呉選手が2009年に4位に入ったのも、ショートウッドを駆使するという「自分の力で戦える武器」を懸命に探したからでしょう。誰かになろうとするのではなく、自分を貫いたからこそ、あの成績が残せたのです。

オーガスタという聖地は、今の自分に何が足りないのか、あるいは何を伸ばすべきなのかを、浮き彫りにします。松山選手の超一流の技術と、片岡選手が味わった悔しさ。この2つのコントラストこそが、日本ゴルフ界がこれから進化していくための大きなヒントになるのではないでしょうか。来年、松山選手がこの舞台でどう化けているのか。そして片岡選手の出場が叶うならどう進化しているのか。今から楽しみでなりません。

PHOTO/Yoshinori Iwamoto


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