PGAツアー唯一のチーム戦「チューリッヒクラシック・オブ・ニューオーリンズ」は、マシューとアレックスのフィッツパトリック兄弟による劇的な優勝で幕を閉じた。彼らが叩き出した「通算31アンダー」という圧倒的なスコアは、大会の歴代最少スコア記録(トーナメントレコード)であり、兄弟ペアの優勝はPGAツアー史上初の快挙である。歴史に名を刻む偉業を成し遂げた兄弟だが、激闘のコースを一歩離れれば、彼らもまた一人の等身大な青年である。美食と音楽の街ニューオーリンズで彼らが見せた、華麗なプレーとは対照的な「飾らない素顔」と心温まるエピソードを紹介しよう。

震える手足と、故郷の練習グリーンで見た夢

オフコースの素顔に触れる前に、オンコースでの劇的な絆のエピソードを紹介したい。最終18番ホール、弟のアレックスは優勝を決定づける短いタップインパットを残していた。しかし、本人はその時の状態を「手も足も全く感覚がなかった」と明かすほど、極度の緊張に包まれていた。

【動画】兄・マシューがバンカーからスーパーショットで魅せる【PGAツアー公式X】

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【動画】弟・アレックスが沈めたウィニングパット【PGAツアー公式X】

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そのプレッシャーの中、兄のマシューはそっと弟の肩に腕を回し、優しく寄り添った。アレックスはその瞬間、ある記憶がフラッシュバックしたという。

「故郷シェフィールドのハラムシャー・ゴルフクラブの練習グリーンで、『これを決めればPGAツアー優勝だ』と遊びでパットしていた子供の頃を思い出したんだ」

幼い頃に兄弟で思い描いていた無邪気な夢を、現実の世界で、しかも二人で叶えたこのエピソードは、今大会最高のハイライトとなった。

名店「Mr. B's」とのスピード感あふれる交流

大偉業を成し遂げた彼らだが、今大会の週における大きな楽しみの一つは、家族水入らずの時間を過ごし、ニューオーリンズの美食を堪能することだった。弟のアレックスは優勝会見で、地元の名店「Mr. B's Bistro(ミスター・ビーズ・ビストロ)」での笑いに溢れたエピソードを明かしてくれた。

「昨日、彼ら(お店のInstagramアカウント)から『もしまた町に来ることがあれば、ぜひ立ち寄ってくださいね』とメッセージをもらったんだ。実はその日の夜7時に予約を入れていたから、『あと10分で行きます』と返信したよ。あれは本当に面白かったね」

お店での厚遇ぶりも彼らを大いに感激させた。エグゼクティブ・シェフ(総料理長)のビンセント氏自らがテーブルに挨拶へ訪れ、楽しく語り合った上にサインまでプレゼントしてくれたという。

すっかりこの名店の味と雰囲気に魅了されたアレックスは、なんとその場でクッキングブック(料理本)を購入。「これから自分でもレシピを見て、彼がキッチンで作るような料理に挑戦してみるよ。もちろん、あんなに美味しくは作れないだろうけどね」と嬉しそうに語った。

しかし、これを聞いた兄のマシューはすかさず「僕は彼(アレックス)が作った料理の最初のテスター(試食役)には絶対になりたくないね(笑)」と強烈なジョークを飛ばし、会見場を大きな笑いに包んだ。メジャー覇者の兄と、初々しい弟の仲の良さが際立つ瞬間だった。

「勝利のカラオケ」に対する断固たる拒否

ニューオーリンズといえば、ジャズやブルースが街中から響き渡る陽気な音楽の街だ。そして「チューリッヒクラシック」では、優勝したペアが表彰式や祝賀のステージでカラオケ(歌声)を披露するのが、恒例のパフォーマンスとなっている。

司会者から「さて、お二人はカラオケで何を歌う予定ですか? 勝負曲は?」と振られると、それまで笑顔だった兄弟の表情が一変した。

「ノー、ノー、ノー、ノー、ノー、ノー!」

兄のマシューは首を横に激しく振り、全力で拒否反応を示した。

「毎年言っているんだけど、優勝したみんなが歌を歌っているのを見るのは知っている。でも、それは僕には無理なんだ。みんなには今ここで謝っておくけど、絶対に歌わないよ(笑)」

弟のアレックスも兄の意見に完全同意し、「僕の歌声はひどいからね。誰もそんなもの聞きたくないはずさ」と肩をすくめ、兄弟揃って歌うことだけは固辞した。

コース上では恐れを知らぬアグレッシブなプレーで他を圧倒する兄弟だが、いざマイクを向けられると途端に恥ずかしがり屋の英国青年に戻ってしまう。活気あふれるニューオーリンズのノリと、彼らの控えめな性格とのギャップが、なんともユーモラスで微笑ましい。

人生を変える勝利と、過酷なスケジュール

歴史的な勝利の余韻にゆっくりと浸りたいところだが、プロの世界は非情なほど過酷だ。アレックスは優勝会見の場で、「まだ(優勝の実感が)湧いてこないよ。実は今夜、トルコへ向かうフライトに乗らなければならないんだ」と、休む間もなく次の戦いの地へ飛び立つ超多忙なスケジュールを明かした。

それでも、彼の顔に疲労の色はない。兄のマシューはすでにメジャー覇者であり世界トップクラスの選手だが、弟のアレックスにとっては下部ツアーなどを渡り歩いてきた苦労の末の勝利だった。この優勝によって彼は、初めてPGAツアーのメンバーシップと2年半のシード権を獲得したのである。

文字通り「人生を変える」勝利だったからこそ、アレックスの言葉には深い感動が宿る。

「両親と、そして兄と一緒にこの瞬間を迎えられたことは本当に素晴らしい。信じられないほどハードワークを積んできた。僕らがやり遂げたなんて、まだ信じられないよ」

大会前の「家族で時間を過ごし、Mr. B'sで美味しいものを食べる」という彼らの素朴な目標は、PGAツアー優勝という最高の結果とともに達成された。

画像: 最終18番ホールのグリーン上、弟アレックスの緊張が伝わってくる一枚(PHOTO/Getty Images)

最終18番ホールのグリーン上、弟アレックスの緊張が伝わってくる一枚(PHOTO/Getty Images)

オンコースでは非情なまでの強さを見せつけ、見事なコンビネーションで歴史に名を刻んだフィッツパトリック兄弟。しかし、オフコースでは名店の味に無邪気に感動し、兄のジョークに笑い合い、大観衆の前で歌うことを照れ隠しで全力拒否する、等身大の愛すべき青年たちだった。彼らが見せてくれた温かい家族の絆と飾らない素顔は、ニューオーリンズの美味しい食事と共に、ファンの心に深く残ることだろう。


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