風を味方につけた、圧巻のボギーフリー「66」
第3ラウンドを午前中の早い時間帯にスタートしたスコットは、まだ風が穏やかなうちのコースコンディションを最大限に活かした。「早い時間のスタートは間違いなく有利だったね。それを利用できたのは良かったよ」と振り返る通り、的確なショットで次々とバーディを積み重ねた。
10年前の優勝経験があるスコットだが、今年のコースは当時よりも長距離化している。彼は、「10年前と比べて道具が進化したことによる飛距離のアドバンテージは、ティーボックスが後ろに下がったことで完全に打ち消されている。だからこそドライバーで攻めなければならないが、非常にトリッキーだ。今日は『ボールストライキングの良さ』がコースのストレスを大きく軽減してくれた」と語っている。この卓越したボールストライキングこそが、ボギーフリーの要因であった。
結果的に6つのバーディを奪い、難関ブルーモンスターでボギーフリーの「66(6アンダー)」という圧巻のラウンドを披露。通算3アンダーまでスコアを伸ばし、23位タイへと見事な浮上を果たした。 「昨日までよりもずっと良いプレーができている実感があったし、今日でそれを確信できた。午後になればもっと厳しくなるだろうから、ボードに良いスコアを残せて嬉しいよ」と、その表情にはベテランらしい充実感が漂っていた。
プロキャリア初の「誤球」という残酷な現実
素晴らしいチャージを見せたスコットだが、彼が現在リーダーボードのさらに上位に食い込めていないのには、初日に起きた「信じられない悲劇」が関係している。第1ラウンドの8番ホールで、スコットはなんと自身のプロキャリアで初めてだという「誤球(wrong ball)」による2打罰を受けていたのだ。
【動画】アダム・スコットが「誤球」を競技委員に説明【PGAツアー公式X】
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x.com「本当に馬鹿げたことをしてしまった。キャリアで初めてのことだよ」とスコットは自嘲気味に語る。
「何千回もボールを確認してきたのに、あの時に限って奇妙な状況が重なり、確認を怠ってしまった。あの2打罰がなければ、今頃もっとリーダーボードの上位にいただろうと思うと、本当に辛い。でも、ゴルフは時に残酷なものだ」
彼の嘆きは、具体的なデータを見るとよりリアルに伝わってくる。現在スコットは通算3アンダーの23位タイだが、もしこの2打罰がなければ通算5アンダーとなり、ジョーダン・スピースらと並ぶ「12位タイ」までリーダーボードを駆け上がっていた計算になるのだ。長年第一線で戦ってきた彼にとっても、この初歩的なミスとそれがもたらした代償は、決して簡単に消化できるものではなかったはずだ。
過去にとらわれない、不屈の精神力
だが、アダム・スコットの真骨頂はここからだった。

初日の誤球について語ったアダム・スコット(撮影/岩本芳弘)
「コース上では他にもたくさんの困難を経験してきた。とにかく前を向いて、ベストを尽くすしかない。幸いなことにあれは(初日の)8番ホールでの出来事だったから、残りのホールで何とか挽回しようと努めたんだ」
10年前の優勝時を振り返り、「人生は大きく変わった。当時は娘が1人だったが今は3人の子供がいる。この10年間、常にゲームを理解しようと努めてきた。今もこうして戦えていることが幸せだ」と語るスコット。
10年前(当時35歳)との違いについて、スコットは「この10年で20代の優秀な若手が倍以上に増え、競争は激化している」と語る一方で、「だからこそ、安全な枠に収まるのではなく、できるだけ『子供のように、本能のままに(play as much like a kid as I can / play with instinct)』プレーして自分の限界を押し上げたい」と闘志を燃やしている。
過去の栄光やデータに縛られず、本能で攻める姿勢がこの日の猛チャージに繋がったのだろう。過去の栄光にも、取り返しのつかないミスにも囚われることなく、今自分にできることに全力を注ぐ。その強靭な精神力があったからこそ、今日の猛チャージが生まれたのである。
優勝争いからは離れてしまったかもしれないが、ブルーモンスターを知り尽くしたベテランが最終日にどのようなプレーを見せてくれるのか。その洗練されたスウィングと不屈の闘志に、最後まで注目したい。
