「みずほアメリカズオープン」の最終日、息詰まる優勝争いを制したのは、ディフェンディングチャンピオンのジーノ・ティティクル(タイ)だった。タフなコースセッティングの中で4日間すべてアンダーパーを記録し、通算13アンダーで見事に大会連覇を達成。キャリア9勝目を飾った。さらにこの優勝により、彼女はLPGAツアー史上最速で生涯獲得賞金1800万ドル(約28億円)を突破する新記録を樹立した。若き実力者として順風満帆に見える彼女だが、この栄光の裏には、直前のメジャー大会での予選落ちという深い絶望と、そこから彼女を救い出した周囲の温かい言葉があった。

メジャーでの予選落ちと「Try Less(頑張りすぎない)」の教え

常にトップレベルの成績を求められる世界最高峰の舞台で、ティティクルは大きな壁にぶつかっていた。前戦のメジャー大会「シェブロン選手権」で、まさかの予選落ちを喫してしまったのだ。プロフェッショナルとして、メジャーの週末を戦えずにコースを去る屈辱は計り知れない。不本意な結果に、彼女の心はひどく落ち込んでいた。

今大会を迎えるにあたり、彼女はたまらずコーチに電話をかけた。不甲斐ない自分への苛立ちやプレッシャー、様々な思いを吐き出し、一度頭の中を空っぽにしたのだ。

そんな彼女に対し、コーチは技術的な修正ではなく、あるシンプルな言葉を授けた。

「完璧に直そうと頑張りすぎないこと(Try Less)」

ゴルフはミスをいかに減らすかのスポーツだが、完璧を求めすぎれば自らを縛り付ける鎖となる。真面目でストイックな彼女だからこそ、コーチはあえて「頑張りすぎない」という逆説的なアドバイスを送ったのだ。

10年連れ添うキャディの励ましと、自分へのフォーカス

コーチの言葉に加えて、彼女のメンタルを立ち直らせたもう一つの要因が、最も身近な相棒の存在だった。プロ転向前から約10年にわたり連れ添ってきた専属キャディのバンポット・ブンピサンサリーだ。

予選落ちで自信を失っていたティティクルに対し、彼は力強くこう励ました。

「休みの週に俺とプレーすれば元に戻る。俺は君のラッキーサインだからな」

言葉だけでなく、実際にオフの週に一緒に2ラウンドをプレーし、彼女がゴルフの楽しさと本来の感覚を取り戻すための時間を共有したのだ。深い絆で結ばれた相棒のサポートは、何よりも心強い薬となった。

猛追を振り切った「究極の達観」と幸運のパット

画像: 連覇で通算9勝目を挙げたジーノ・ティティクル(写真/Getty Images)

連覇で通算9勝目を挙げたジーノ・ティティクル(写真/Getty Images)

迎えた今大会の最終日、ティティクルは1打差に迫るイン・ルオニン(中国)の猛追を受けていた。驚くべきことに、インはこの極限のプレッシャーの中で「18ホール全てでパーオン(パーオン率100%)」を達成する凄まじいプレーを見せていたのだ。

しかし、首位争いの渦中にあっても、ティティクルの心は驚くほど穏やかだった。試合中は一切リーダーボードを見ず、他人のスコアに一喜一憂することをやめたのだ。

「ゴルフの結果が良くても悪くても、私の人生が変わるわけじゃない。だから自分のテンポやリズムなど、コントロールできることだけに集中した」

リーダーボードの数字という「自分ではどうにもならないもの」を手放し、目の前の1打に自分の持てる全てを注ぎ込んだ。その結果、最終18番ホールで放ったバーディパットが見事にカップへ吸い込まれ、優勝を決定づけたのだ。

完璧を求めなくなった彼女には、最後にゴルフの神様も微笑んだ。「実は強すぎて『ヤバい』と思った(too aggressive)。でも運良くライが良くて入ってくれたの」と、会見ではキャディの「ラッキーサイン」を証明するかのような裏話を笑いながら明かしている。

失意のどん底から這い上がり、史上最速での生涯獲得賞金1800万ドル突破という大記録とともに頂点に返り咲いた23歳。彼女の精神的な成熟は、9つ目のトロフィー以上に大きな価値を持っている。


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