「完璧じゃなくてもやれる」絶不調と猛追をはねのけた強靭なメンタル
今大会のハーバートは、決して万全な状態ではなかった。週の初めから風邪に苦しんでおり、さらに初日から首位を独走するプレッシャーを「ツール・ド・フランスでペロトン(大集団)から抜け出した選手のようだ。逃げ場がなく、全員が自分を追ってくる」と表現している。
とくに金曜日のラウンド後から日曜日のスタート前までの時間が「今週で最も辛い時間だった」といい、「日曜の深夜12時30分に咳き込んで目が覚め、ブライソン(・デシャンボー)やセルヒオ(・ガルシア)に追いつかれるシナリオが頭を駆け巡って一睡もできなかった」と告白するほど、極限の精神状態に追い込まれていたのだ。
そんな最悪の体調と寝不足で迎えた最終日、恐れていた通り、スペインの英雄セルヒオ・ガルシアが背後から猛烈なチャージをかけてきた。
勝負の最初の分水嶺となったのは、後半の9番ホールだった。痛恨のダブルボギーを叩き、これまでの貯金を吐き出しそうになった絶体絶命のピンチ。普通の選手であれば、ここで精神的に崩れてもおかしくはない。

キャディのニック・ピューとトロフィーを掲げるルーカス・ハーバート(提供/LIVゴルフ)
しかし、ハーバートは違った。彼は長年の相棒であるキャディのニック・ピューと顔を見合わせ、なんと笑い合ったのだ。
「まだ2打リードしているじゃないか」
どん底の体調とミスショットの連鎖の中でも、彼らは決して悲観せず、信じられないほどの冷静さを保ち続けた。
真の分水嶺と、勝利を裏付ける「史上最高記録」
とはいえ、試練は終わらなかった。9番のダブルボギーの直後、10番ホールでガルシアがバーディを奪い、一時は「1打差」にまで肉薄されたのだ。
しかし、続く12番(パー5)でハーバートが意地のバーディを奪い返し(ガルシアはパー)、再び突き放すことに成功する。ハーバート自身も「12番でモメンタム(流れ)を取り戻せた。あれこそが自分に必要だったものだ」と振り返っており、ここが真の勝負の分水嶺となった。
体調不良とミスショットの連鎖の中でも彼が勝ち切れたのには、確かな技術的な裏付けがある。今大会、ハーバートは計16ホールのパー5を「トータル16アンダー」という驚異的なスコアでプレーした。これはLIVゴルフにおけるパー5のトーナメント史上最高記録である。体調がどん底でも確実にスコアを伸ばせるパー5で完璧にチャンスをものにしていた事実が、彼の強靭さを強力に裏付けている。
その後、天候悪化による雨の中断という水を差されるアクシデントもあったが、ハーバートの集中力は途切れなかった。
「状況が完璧でなくても、自分はかなりうまくやれるということを学んだよ」
どんな逆境にも屈しないメンタルが、彼を勝利へと導いた最大の要因だった。
歴史的快挙と、次なる舞台「全米オープン」への切符
3日間にわたって孤独な首位を走り続けた重圧から解き放たれたのは、最終18番のグリーンにボールが乗った瞬間だった。勝利を確信した彼は、ようやく安堵の表情を浮かべた。
この優勝は、チームにもとてつもなく大きな副産物をもたらした。彼が優勝したことで、母国オーストラリアのチームである「Ripper GC」は、キャメロン・スミス、マーク・レイシュマン、エルビス・スマイリーに続き、「メンバー4人全員がLIVゴルフで個人優勝を果たした史上初のチーム」という快挙を達成したのである。
さらに彼自身も、LIVゴルフの個人ポイントランキングで一気に3位へと浮上し、来月開催されるメジャー大会「全米オープン」の出場権という最高のプラチナチケットをもぎ取った。偶然にも、今年の全米オープンが開催されるシネコック・ヒルズは、彼がかつて初めてメジャー大会に出場した思い出の地だ。
「あの時から、自分がどれだけ学び、成長したかを見るのが本当に楽しみだ」
風邪で咳き込みながらスタートした朝から、メジャー切符を手に歓喜の祝杯を挙げる夜へ。限界を超えて掴み取った完全優勝だった。
