高熱を乗り越えた自己ベスト「63」からの猛チャージ
今大会のファウラーは、決して万全のコンディションではなかった。彼は開幕前から副鼻腔炎に苦しんでおり、火曜日と水曜日の夜には約38.9〜39.4度(華氏・102〜103度)の高熱を出していたのだ。本人が「少し頭がぼーっとして、数フィート先のカップに球を入れられるかどうかも分からなかった」と語るほどの最悪の状態からスタートし、初日はスコアメイクに苦しむ立ち上がりとなっていた。
しかし、金曜日に見事なバウンスバックを見せると、そこから彼のゴルフは完全に息を吹き返した。この日彼が叩き出した「63(8アンダー)」は単なる好スコアではなく、ファウラーがクエイルホローでプレーした過去50ラウンドの中で「自己ベスト」のスコアだった。この日全体のベストスコアでもあり、彼の調子が極限まで高まっていたことを示す強力なデータだ。

最終日「65」の猛チャージで一時は単独トップに立ったリッキー・ファウラー
迎えた最終日、彼は静かに、しかし確実にリーダーボードを駆け上がり始めた。前半の9番でバーディを奪い、スコアを5アンダーまで伸ばしてハーフターンを迎えた時、彼の目には明確な「勝利」が見えていた。
「よし、勝てる位置にいるぞ。残り9ホール、思い切り楽しもう」
単なる上位フィニッシュではなく、本気で大逆転優勝を狙ってサンデーバックナインへと突入していったのだ。
怪我を乗り越えた親友からのインスピレーション
極限のプレッシャーがかかるサンデーバックナインにおいて、ファウラーが最後まで冷静かつアグレッシブにプレーできた理由。それは、前夜に別のスポーツの舞台で頂点に立った、一人のアスリートの姿があったからだ。
彼の親友であり、スーパークロス(モトクロス)のトップライダーであるケン・ロクスンが、前日の夜に見事チャンピオンの座に輝いたのである。ロクスンは過去に腕に大怪我を負い、キャリアを終わらせかねないほどの手術とリハビリを何度も繰り返してきた。その壮絶な苦難を乗り越えて見事に復活し、再び頂点に立った親友の姿は、ファウラーの心に強烈な炎を灯した。
「彼らは文字通り命を懸けて戦っているんだ。彼らに比べれば、僕らはショットをミスしてもそこまで心配しなくていい。怪我をするわけじゃないからね」
時速100キロを超えるスピードで宙を舞うモトクロスの世界。そこでの失敗は直接「命」に関わる。それに比べれば、ゴルフでのショットのミスなど恐れるに足らない。親友の壮絶な戦いから得たこの悟りのようなインスピレーションが、ファウラーから一切の恐怖心を奪い去り、アグレッシブなピン狙いのショットを生み出していたのだ。
「グリーンマイル」の脅威と、極めて冷静なマネジメント
しかし、最後の最後に立ちはだかったのが、クエイルホローの名物である上がり3ホール「グリーンマイル」だった。第2ラウンド終了時点でのデータを見ても、1〜15番まではフィールド全体でトータル153アンダーだったのに対し、16〜18番はトータル101オーバーと、選手たちを大いに苦しめている。特に最終18番ホールは、2003年以降のPGAツアーにおいて「最も難易度の高いパー4(平均スコア4.39)」という恐ろしいデータがある。
ファウラーは16番、17番で向かい風(アゲンスト)の中を6番アイアンで打ち、難関の18番でも「少し追い風(フォロー)の助けがある」と読んで同じく6番アイアンを握った。しかし、「18番では少し風の読みを間違えてしまった」と明かした通り、極めて冷静なマネジメントの末のわずかなジャッジミスにより、痛恨のボギーを叩いてしまう。

「グリーンマイル」の終わり、最終18番をボギーとし、勝ったK・レイタンにプレッシャーをかけきれなかった
結果的に勝者にプレッシャーをかけきれなかったが、その戦いぶりは称賛に値する。ゴルフとモトクロス。全く異なる競技でありながら、頂点を極めるアスリート同士の深いリスペクトと絆が、この日のクエイルホローに「65」という奇跡的な猛チャージを呼び起こした。
優勝こそないものの完全復活に近い状態といえるリッキー・ファウラー。次なるメジャーの舞台でも、恐れ知らずの彼のプレーが我々を魅了してくれるに違いない。
撮影/岩本芳弘
