シャフトに迷い込んだら、「素直に動く原点」に立ち返る
長谷部 4月にグラファイトデザインが発表している「ゴルファーの意識・実態調査」をご存知でしょうか。私の知る限りでは2024年から3年連続で実施されているアンケートですが、その内容をひも解いていくと、非常に興味深い数字が見えてきました。
ひとつは、「シャフトは人それぞれ合うものが違う」ということを、8割以上のゴルファーが知っているということです。
「ゴルファーごとにベストなシャフトは異なる」という認識がこれほど浸透していることには驚きました。しかしその一方で、実際に「リシャフトの経験がある人」となると、数字は半分以下にまで下がってしまう。この「8割の認知」と「5割以下の実行」の間にあるギャップ、つまりリシャフトを躊躇させる障壁は何なのだろうか、と考えさせられたんです。もちろん、現状のシャフトに満足している方も多く居ると思いますが。
GD 「リシャフト」が一般に知られたのは、1996年にフィル・ミケルソンがフジクラスピーダー「757」を使用したのがきっかけだと言われています。その頃から「リシャフト」という言葉自体は広まりましたが、当時は接着式で、今のようないわゆる「カチャカチャ」(弾道調整機能)が登場するのは、その約10年後の2008年からです。キャロウェイの「I-MIX」を皮切りに、翌年にはテーラーメイドが導入し、各社に広がりました。
カチャカチャによってリシャフトは身近なものになったはずですが、それでもアスリートモデルの使用者でも(リシャフトをするのは)3〜4割程度で、残りの6〜7割は純正シャフトのまま。アベレージモデルに至っては、ほぼ100パーセントの人が純正シャフトをそのまま使い続けているという結果も出ています。メディアとして「リシャフト」をテーマにする際、どれだけの人に響くのかは常に試行錯誤した部分でした。
長谷部 グラファイトデザインはOEM(メーカー純正)とアフターマーケット(リシャフト用)の両方を手掛けていますが、決算報告などを見ると売上比率が非常に均衡しているのが特徴的です。かつてはグレッグ・ノーマンやジャンボ尾崎といったトッププロのシャフトを手掛けていた歴史もあり、「プロ御用達の上級者向けブランド」というイメージが強い。
その中で「ツアーAD」、特に「PT」というモデルは、長年リシャフトの対象として愛され続けています。「PT」は登場から15〜20年近く経つ息の長いモデルです。
GD 「PT」は2008年の「ツアーステージ 405」で、メーカーカスタムに採用されたのが普及の大きなタイミングだった記憶があります。
長谷部 そうですね。20年近い歴史がありながら、先日女子ツアーで優勝した菅沼菜々プロが今年から「PT」に変更して飛距離を伸ばしているといったニュースを聞くと、「いつの設計」とか関係ないのだと痛感します。
「自分に合うシャフトをいかに見つけるか」が、今もなおドライバーのパフォーマンスを上げるための有効な手段であることの証になります。
GD 「ツアーAD」の「PT」と「DI」に関しては、よほどのことがない限り、今後も作り続けられる普遍的な商品だと思います。
長谷部 かつての「HT80」のような高弾性素材を使った超低トルクを追求した時代を経て、今はあまり低トルクに重きを置かない、自然なしなりのシャフトが支持されている。それが未だに人気だということは、ある種の「完成形」がそこにあるのでしょう。ただ現在は「大型ヘッド」、すなわち深重心が主流でクラブメーカー各社はそれを打ちこなすための工夫を凝らしています。私も多くのシャフトを試打しましたが、最新シャフトの傾向はしなるタイミングやポイント、先端の強さ、ねじれ方に非常に個性があります。
個性が強い分、自分に合うものを見つけるまでに時間がかかりすぎる気がします。本来は「自分に合うシャフトを見つける」ことが目的のはずが、いつの間にか「シャフトを認識する、理解する」ための作業に時間が削られてしまっている。これでは本末転倒で、まさに「シャフトの迷路」にハマっているゴルファーが多いのではないでしょうか。私のようなアマチュアは、スウィングが一定ではないので、好不調とシャフト特性の判断を見誤ることもありますね。
GD 最近のシャフトは、スペック上の硬さ(フレックス)以上に、「先端の硬さ」を強く感じるものが増えました。実際に打ってみると、アマチュアには「使いこなせない」と感じるものも正直多いはずです。
結果として「昔の少し緩めのシャフトのほうが打ちやすかった」という印象を抱きがちですが、これは大型ヘッドの慣性モーメントによってヘッドが開こうとする動きを抑えるために、先端剛性を高めざるを得ないという背景があるように思います。製品の進化に、ゴルファー側の技術が追いついていないということはないのでしょうか?
長谷部 たとえば、PGAツアーの選手たちが最新ドライバーで驚異的な飛距離を出している背景には、藤倉コンポジットの「ベンタス(Ventus)」に搭載された「VeloCore(ベロコア)」のような、先端剛性をかなり高めたシャフトの存在があります。
ただ、日本の一般アマチュアがそのハードなスペックを打ちこなせるかというと、疑問が残ります。「ベンタスはやはりハードだ」という評価が一部にあるし、かつてのように「プロが使うシャフトは難しい」という先入観が広まってしまっているのは、少し残念な気もします。
GD 「ベンタス」だけでなく、他のシャフトも先端のねじれ剛性を上げる傾向はあるのでしょうか?
長谷部 グラファイトデザインの「VF」や「GC」も同様に、シャフト径を太くして剛性を高めています。とにかく今は「先端が硬い、動きの少ない」シャフトがトレンドです。フェースの余計な動きを抑え、シャフトのしなりとヘッドの動きを素直に連動させる狙いがあります。
GD 先端が硬すぎることで、アマチュアにはどのようなデメリットが生じるのでしょうか。
長谷部 一つは、ミスヒットをした際に、かえって極端な引っ掛け(チーピン)やスライスが出やすくなること。もう一つは、球が上がりにくくなるという現象です。
GD 「スピーダーNXグリーン」を打った時に、「これは(非力な)自分には無理」だと感じたことがあります。「NXグリーン」が登場したとき、ハードになったように感じました。その後の「NXブラック」は「NXグリーン」よりも打ちやすく感じました。最新の「NXゴールド」は打ちやすいと評判になっていますが、メーカー側もそのあたりは試行錯誤しているのでしょうか。
長谷部 メーカーは明言しませんが、大型ヘッドとのマッチングを追求しすぎた結果、難しくなりすぎた部分を、ユーザーのフィードバックを受けて修正している、という揺り戻しはあると思います。そうなると、結局「初代のNXブルーが一番打ちやすかったのでは?」という結論に至ることもある。
ただ、そう思った時には既に廃番になっていたりするんですよね。シャフトメーカーは、常に最新ヘッドに対して「何がベストか」を開発の起点にしています。理由はツアー現場でのテストから得られるフィードバックが、開発の最大の原動力だからです。
そんな中で、今日私が持ってきたのは日本シャフトの「NSプロGTシリーズ」です。デザインも真っ黒でレトロな雰囲気ですが、実は2000年代前半の設計で、20年以上続く超ロングセラーモデルです。もちろん現行品として廃番にしないのが日本シャフトのすごいところで、とてもコスパがいい。
なぜこれに注目したかというと、今の「大型ヘッド対応」といったトレンドを追いかける前の、カーボンシャフトとしての基本性能、「低トルク」と「振りやすさ」を純粋に追求した素直な設計と思うからです。「PT」ほど有名ではありませんが、同じような「素直なしなり」を持っていると思います。
実際に「Qi10」に挿して打ってみましたが、ヘッドの挙動がわかりやすく自分としては良い結果が出ました。最新の超大慣性モーメントヘッドに、あえて20年前の設計思想をぶつけると、実はバランスが取れるのかと。「GT500」は、手元から先端までストレスなくしなる。「GT600」から「GT800」は重くなるほどカウンターバランスが大きくなるので外ブラの重いヘッドにも合いやすいのではとも思います。
また最新シャフトのような極端な特徴がない分、自分のスウィングをそのままヘッドに伝えることができるので、最新シャフトで迷ってしまった時などに、「素直なしなりのシャフトも悪くないな」というのが正直な感想です。
GD 確かに今のシャフトの変遷を振り返ると、かつて(90年代前半)は「プロと同じヘッド、でもシャフトはアマ向け」というブームがあり、そこからカスタムシャフトが「重い・硬い・難しい」という時代を経て、「PT」以降の「高性能・低トルク」な時代へと移り変わってきました。
長谷部 90年代後半は素材(高弾性素材)の競争でしたが、2000年代に入りチタンヘッドの大型化が加速すると、素材性能よりも「振りやすさ」や「汎用性」が重視されるようになりました。スウィングがバラつくアマチュアにとって、一発の飛びよりも「振りやすさ」が重要であることは間違いありません。
最新の「硬くて難しい」シャフトに迷い込んだ時こそ、「ツアーAD PT」や「NSプロGT」のような「素直に動く原点のようなシャフト」に立ち返ることで、自分のスウィングとヘッドのマッチングを正しく見直せるのではないでしょうか。
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