
PINGの開発責任者ライアン・ストッケ(Ryan Stokke)氏
PING本社で働く一般社員が“テストドライバー”

「SFT」モデルは米PING本社に勤める約500人の従業員がテスターとなり、製品化されているという
「右に曲がるミス(スライス)」を極限まで抑えるために設計された「SFT」。このクラブのターゲットは、スウィング軌道が安定しない一般的なアマチュアゴルファーである。ライアン・ストッケ氏は驚くべき事実をあっさりと口にした。
「右へのミスを抑える『SFT』モデルは、ツアープロがテストするのに適したクラブではないため、プロのフィードバックは使いません」
フェードやドローを自在に打ち分けるプロにスライス防止クラブを打たせても、アマチュアが直面するリアルな悩みの解決には繋がらないからだ。
では、一体誰がテストをしているのか。アリゾナ本社では、約1000人の従業員のうち約半数がテストプログラムに参加し、実際のアマチュアのターゲットスピードに合わせてテストを行っているという。
「社員がテストをしている」と聞くと、素人が適当に打っていると誤解されるかもしれない。しかし実態は異なる。テストに参加する社員は「自身のヘッドスピード、ゴルフ歴、持ち球、ミスの傾向(右か左か)、使用クラブ」といった詳細なプロフィールをシステムに登録している。つまり、彼らは単なる一般社員ではなく、「PINGによって完全にデータ化・カテゴライズされた精巧なヒューマン・テスター集団」なのである。彼らが放つ生々しいデータを、開発陣は日々分析している。
さらに、ゴルフアプリ「Arccos(アーコス)」に蓄積された数千万打という膨大なビッグデータも活用している。ここで重要なのは、ロボットテストや練習場(鳥かご)のデータではなく、「実際のゴルフコースというリアルな環境下でのパフォーマンス」を実証している点だ。実際のコース上でプレーヤーの右へのミスが本当に減っているか、ストレートなショットが打てているかを検証しているのである。プロの「感覚」という曖昧な言葉に頼るのではなく、数千万打に及ぶアマチュアの「残酷な現実のデータ」を徹底的に解析し、本当に右に行かないクラブへと進化させているのだ。
ポスト10K時代へ。MOI(慣性モーメント)の先にある新指標
PINGといえば、「G430シリーズ」で話題を呼んだ「10K」というキーワードが記憶に新しい。「G430 MAX 10K」で慣性モーメント(MOI)の数値は限界付近に達したが、数値がある一定ラインを超えると恩恵は緩やかになることを開発陣は既に認識している。
そのため、現在重視している指標は、単なるMOIの数値ではなく、コース上での「着弾のバラつき(Dispersion)」をいかに抑えるかという「実質的な寛容性(Effective Forgiveness)」である。ロボットが測定する数値的なブレの少なさではなく、人間が打った際に最終的にコースのどこにボールが落ちるかという結果にフォーカスしているのだ。
この「実質的な寛容性」を追求する中で、ストッケ氏のエンジニアとしてのプライドが垣間見える。
「単純にソールの後ろに重たいウェイトを付ければ良い(MOIは上がる)という発想に至ると思うが、実はそうではない」
ただおもりを後ろに貼っただけのクラブは、打ってもやさしくない。フェースのたわみ方、低重心化、素材、形状など、システム全体が連動して最適化されて初めて飛んで曲がらないクラブになるというのだ。

ヘッド後方のウェイトは大事だが、単にその部分を重くすればいいという話ではないと話すストッケ氏
さらに、大慣性モーメントの「Kモデル」には興味深い物理トリックが隠されている。一般的に「大きいヘッドは右にすっぽ抜けやすい」と思われがちだが、実は重心を深く設計すると、インパクトに向けてフェースがターンオーバー(左を向く動き)しやすくなる特性がある。ストッケ氏らはこの物理トリックを利用し、大MOIでありながらもボールを力強くつかまえる設計を組み込んだのだ。
ただヒール側におもりを貼るだけでなく、深重心とターンオーバーの物理法則を巧みに操る設計力。ツアープロの華やかな声ではなく、アマチュアの切実な声と数千万のデータに泥臭く向き合う。この愚直なまでの本気度こそが、PINGの「SFT」がアマチュアから愛される理由なのである。(文/山口哲平)
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写真/有原裕晶
