945日ぶりの美酒。14番ホールの「魔法のパット」
首位と4打差で最終日を迎えたブティエは、決して焦っていなかった。実は前日の第2ラウンド、コースは「これまで経験したことがないほど」(本人談)の暴風が吹き荒れていた。しかし、穏やかな天候に戻る最終日には必ずスコアの伸ばし合いになると予測し、彼女は静かに勝負の時を待っていたのだ。
目論見通り、最終日に「66」をマークした彼女は、4打差のビハインドを跳ね返して通算9アンダー(66-72-66=204)で逆転優勝を飾った。彼女にとってLPGAツアー通算7勝目であり、2023年の「メイバンク選手権」以来、945日ぶりの美酒だ。 自身にとって初優勝の舞台でもあったこの大会で、2021年以来となる2度目の制覇。この勝利により、彼女はアニカ・ソレンスタムやジュリ・インクスター、ベッツィー・キングといった殿堂入り選手たちが名を連ねる「当大会複数回優勝者(史上6人目)」の偉大なリストに名を刻むこととなった。
勝負を決定づけたのは、サンデーバックナインでの一打だ。この日の彼女は、18ホールで26パットという集中力を見せていた。その極みとも言えるのが14番ホール。上りの向かい風の中、約10メートル(35フィート)のパットを見事に沈めたのだ。彼女自身が「少し打ちすぎたかと思ったがカップに消え、これが終盤に向けての大きなモメンタムと自信に繋がった」と振り返るこのパット。まるで目に見えない力がボールをカップへと導いたかのような、完璧な一撃だった。
【動画】これがクラッチパット! ブティエ、14番の10mロングパット【LPGA公式X】
@LPGA post on X
x.com幸運の女神エヴリンちゃんと、特別なサプライズ
2023年にはメジャー制覇を含む年間4勝という大活躍を見せた彼女だが、以降はあと一歩でタイトルに届かない日々が続いていた。「この2年間は堅実なプレーができていたものの、勝てないことにフラストレーションを感じていた。さらに今季前半戦はかなり苦しんでいた」と本人が明かす通り、決して平坦な道のりではなかった。
そんな苦悩の中にいた彼女の心を救った「見えない力」の正体は、ラウンド前に出会った一人の少女だったのかもしれない。 ブティエはラウンド前、ファースト・ティーの活動を通じて、ガンと闘う少女エヴリンちゃんと面会した。そして彼女は、エヴリンちゃんに「ディズニーとユニバーサルに行ける」というサプライズニュースを伝える大役を担ったのだ。
ブティエの熱烈なファンであるエヴリンちゃんは、その知らせに大喜びし、そのままコースへ出て彼女のプレーを熱心に観戦。エヴリンちゃんは幸運の女神となり、ブティエにとって非常に心温まる特別な経験となった。「彼女に良いニュースを伝えられたこと、そして彼女が応援してくれたことは私の心を温かくし、一日を素晴らしい気分でスタートさせてくれた」と、ブティエは感動の面持ちで語った。闘病中の少女の笑顔が、苦悩と重圧の中で戦うトップアスリートの心を解きほぐし、逆転勝利への道を照らしたのである。
次なる舞台、リビエラCCでの全米女子オープンへ

945日ぶりに優勝したセリーヌ・ブティエ
感動の勝利の余韻に浸る間もなく、彼女の目は次なる大きな目標へと向けられている。優勝の勢いを持ち、次週はロサンゼルスのリビエラCCで開催される「全米女子オープン」の挑戦へと向かう
のだ。「リビエラでの挑戦が本当に楽しみ」と語る彼女の表情には、945日ぶりの勝利で取り戻した確かな自信が満ち溢れていた。
なお、今大会に出場した日本勢8選手の戦いぶりは、悲喜こもごもの結果となった。上位争いを牽引した岩井千怜が通算6アンダーで堂々の4位タイに食い込み、吉田優利も通算4アンダーの9位タイと、2人が見事トップ10フィニッシュを果たす素晴らしい健闘を見せた。さらに、岩井明愛が通算1アンダーの29位タイ、西村優菜が通算5オーバーの68位タイ、原英莉花が通算7オーバーの75位で3日間の戦いを終えている。一方で、櫻井心那、馬場咲希、そして渋野日向子の3選手は無念の予選落ちを喫した。
次週は舞台をロサンゼルスの名門・リビエラCCに移し、いよいよメジャー大会「全米女子オープン」が開幕する。劇的な復活優勝を遂げて自信を取り戻したブティエの勢いは続くのか。そして、最高峰の大舞台に挑む日本選手たちがどのようなドラマを見せてくれるのか。彼女たちの次なる戦いにも、大きな期待が寄せられる。
写真/LPGA&Getty Images
