第50回の節目を迎えた「メモリアルトーナメント by ワークデー」。開幕前の記者会見に登壇した大会ホストであり、ゴルフ界の「帝王」ことジャック・ニクラスが、現代のPGAツアーが抱える複数の問題に対して鋭い苦言を呈した。長年ゴルフ界の発展に尽力してきたレジェンドの口から飛び出した、重みのある警鐘の言葉をお届けする。

過密すぎるスケジュールがもたらす「選手の疲弊」

現在、PGAツアーは高額賞金の「シグネチャーイベント(昇格大会)」を軸にスケジュールが組まれているが、ニクラスは手放しで賛同しているわけではない。「現在のスケジュールには賛成できない」と語り、ジェイ・モナハン(PGAツアーコミッショナー)やブライアン・ロラップCEOらと直接話し合いたいと述べている。

帝王が最も危惧しているのは、ビッグトーナメントが近すぎる間隔で密集している点だ。大舞台が連続することで他の大会が割を食うことになり、「ペブルビーチ、ロサンゼルス(ジェネシス招待)、ベイヒル(アーノルド・パーマー招待)、ザ・プレーヤーズ選手権といったビッグトーナメントに挟まれた『コグニザントクラシック』のような大会は、目立つチャンスが全くない」と、自身も優勝し、コース設計や運営に深く関わる大会に同情を交えて指摘している。

さらに、過密日程による選手たちの心身の消耗も懸念している。ニクラスは自らの現役時代を振り返りながら、「選手にとっても集中力を保つのが難しく、バッテリーを充電する(休む)期間が必要だ」と語る。休養なきスケジュールは、結果としてプレーの質を低下させかねないという愛の鞭である。

「タイタニック号のデッキチェア」飛距離制限の無意味さ

また、ゴルフ界を二分する論争となっている「ゴルフボールの飛距離制限(ロールバック)」についても、シニカルな見解を示した。

USGAとR&Aが主導する今回のルール変更について、ニクラスは「アマチュアには1〜2ヤード、トッププロでも12〜14ヤード程度の影響に留まるだろう」と推測。この微々たる飛距離制限に対し、「タイタニック号からデッキチェアを投げるようなもの」と表現し、大勢に影響はないと語っている。大船が沈みかけている時に小さな椅子を投げ捨てたところで何も変わらない、という強烈な皮肉である。

限界を迎えるゴルフ場。「これ以上伸ばすなら道路を買うしかない」

ニクラスが飛距離問題に言及する真の理由は、地球環境や物理的な限界に対する危惧にある。彼は、今回の飛距離制限の唯一の利点は「これ以上飛距離が伸びるのを防ぐこと」であると断言する。

現代のパワーゴルフに合わせてコースを延長し続けることは、もはや持続可能ではない。「我々は土地、時間、資金、水などを使い果たしつつある」と現代の環境問題を指摘したうえで、自身が設計したミュアフィールド・ビレッジを例に挙げた。

同コース自身もパワーゴルフに対抗するため、2021年に151ヤードを延長するなど改修を繰り返し、現在PGAツアーの中で6番目に長い7569ヤードまでコースを伸ばし続けてきた歴史がある。だからこそ、「このコースをこれ以上長くしようと思ったら、ダブリン通り(Dublin Road)を買収しなければならない」という言葉には、限界を迎えた悲鳴に近いリアルさが滲んでいる。

実は、ニクラスが「飛びすぎ」によるゴルフ場の肥大化に危機感を抱くのは、今に始まったことではない。1980年代には、限られた土地でも楽しめるよう通常の半分の距離しか飛ばない専用球を用いた「ケイマンゴルフ」を自ら考案し、広大な敷地や大量の水を必要としない、持続可能なゴルフの形を提唱していた歴史がある。環境とゴルフの共存を誰よりも早くから模索してきた彼だからこそ、現代のパワーゴルフへの警鐘は極めて切実なのだ。

そして結論として、ニクラスは「もしこのまま飛距離が伸び続ければ、コースに手を加えずにチャンピオンシップレベルの大会を開催できるゴルフ場は、全米に20〜30コースしか残っていないだろう」とまで警告し、失われゆく名門コースへの危機感を露わにした。

画像: 今年もマスターズで恒例のオナラリースターターを務めたジャック・ニクラス(撮影/岩本芳弘)

今年もマスターズで恒例のオナラリースターターを務めたジャック・ニクラス(撮影/岩本芳弘)

帝王の目に映る現代ゴルフは、パワー偏重とビジネス優先の道をひた走っているように見えるのだろう。今大会に日本からは松山英樹や、米ツアー本格参戦中で予選をJ・T・ポストンと同組で回る久常涼が出場する。彼らトッププロが、ニクラスの作り上げた「知性と精度」を問う名門コースでどのようなプレーを見せるのか。ゴルフの原点に立ち返るような、深い攻防に期待したい。


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