「メモリアルトーナメント by ワークデー」の最終日、熱戦の裏側で、未来のゴルフ界を担う若者たちに向けた特別なセレモニーが開かれていた。全米トップの大学生ゴルファーを表彰する「ジャック・ニクラス・アワード」の授賞式である。壇上に座る御年86歳の「帝王」ジャック・ニクラスの眼差しは、これから厳しいプロの世界へと羽ばたこうとする若き才能たちに向けられ、深い慈愛に満ちていた。数々の金字塔を打ち立ててきた生ける伝説が彼らに授けたのは、決して華やかな成功譚などではなく、ユーモアと含蓄にあふれた自らの「不完全なルーツ」についての物語だった。

「ゴルフは3番手」消去法で選んだ孤独なスポーツ

質疑応答の場で、記者から子供の頃のスポーツについて問われたニクラスの口から、誰もが耳を疑うような衝撃の事実が飛び出した。

「私のベストスポーツは間違いなく野球だったね。2番目がバスケットボールで、ゴルフはたぶん3番目か4番目くらいだったよ」

ゴルフ史上最高のプレーヤーの口から語られた「ゴルフは3番手以下」という告白に、会場はどよめいた。では、なぜ彼はゴルフの道を選んだのか。その理由は極めて現実的であり、彼らしい合理性に満ちたものだった。

画像: ジャック・ニクラス(写真は2026年のマスターズ)

ジャック・ニクラス(写真は2026年のマスターズ)

「野球をやるには、真夏の砂埃が舞う公園で、他の10人や12人のチームメイトが集まるのを待たなければならない。でも、彼らはなかなか現れないんだ。一方でゴルフなら、朝8時に一人でゴルフ場へ行き、暗くなるまで一日中没頭できる。要するに、消去法(プロセス・オブ・エリミネーション)で残ったのがゴルフだったというわけさ」

「消去法」で選んだ孤独なスポーツのなかで、彼は自らの圧倒的な才能を開花させていくことになる。さらに、この「消去法」で選んだゴルフと並行して他のスポーツにも取り組んでいたことが、結果的に彼にもうひとつの奇跡をもたらした。

「私はゴルフのキャリアを通じて、一度も怪我(ゴルフによる故障)をしたことがない。それは、他のスポーツもやって体全体を使っていたからだ。だから君たちも、ゴルフだけに集中しすぎるのではなく、他の運動もして体を鍛えなさい」と、前人未到の記録を支えた強靭な肉体の秘密を語った。

初任給は33ドル。若きマキロイに説いた「忍耐」の重要性

そして話題は、若者たちがこれから直面するプロの世界への不安へと移った。「プロ生活を始めるにあたってのアドバイスは?」という質問に対し、ニクラスは自身の「初任給」のエピソードを持ち出した。

「私がプロ転向して初めて手にした賞金は、1962年の大会で稼いだ『33ドル(約50位タイ)』だった。最下位の賞金100ドルを、3人で分け合ったんだよ。その時の小切手? もちろん換金せずに、今も私の博物館に飾ってあるよ(笑)」

ニクラスはこの笑い話を披露した直後、若者たちの目を見てこう続けた。

「だが、その次の試合では440ドル、次は350ドル、256ドル、250ドルと稼いで、その次の試合で2位になった。自分が何をしているか正確に理解していたし、それを待つだけの忍耐力(ペイシェンス)があったんだ」

最初からすべてを上手くやろうと焦る必要はない。勝つためには「忍耐」が必要であり、敗北から学び、自分が何者であるかを理解する時間が必要なのだと諭した。

さらにニクラスは、現代のトッププロの例を挙げてこの「忍耐」の重要性を説く。

「ローリー(・マキロイ)が19歳の時、私のところへ来て『最後の9ホールをうまくフィニッシュできない』と相談してきた。私は『ローリー、君はまだ19歳だ。自分に忍耐強く、リラックスして楽しみなさい。無理をするな』とアドバイスした。すると約3週間後、彼はシャーロットの大会で63を叩き出して8〜9打差で圧勝したんだ。私は彼に『忍耐強くとは言ったが、これはやりすぎだ』と手紙を送ったよ(笑)」

受賞者たちとほぼ同年代だったマキロイもまた、ニクラスの言葉に救われていたという事実は、彼らにとって最も胸に響く実例となったはずだ。

「ショートゲームは練習できなかった」帝王が語る強みの磨き方

最後に帝王は、ゴルファーとして最も重要な「弱点との向き合い方」について、自らの生々しい肉体の秘密を明かして教訓を与えた。

「プロの世界では『自分の苦手なことを練習しろ』とよく言われる。だが、自分にできないことを無理にやろうとしてはいけない。実は私は19歳になるまでに、背中に9回も注射を打つほどの深刻な怪我を抱えていた。背中が痛くて、ショートゲームの練習など全くできなかったんだ」

天才と謳われたニクラスにも、致命的な弱点があった。しかし、彼はそれを嘆くことはしなかった。

「ショートゲームの練習ができないなら、ロングゲーム(ショット)とパッティングを誰よりも極めるしかないと腹を括った。それが私の『強み』になったんだ。君たちも、自分の強みが何なのかを見極め、そこを徹底的に磨き上げなさい」

弱点を受け入れ、圧倒的な強みでそれを補う。これこそが、メジャー18勝という前人未到の記録を打ち立てた帝王の真髄である。

「初任給は33ドル」「得意なのは野球」「ショートゲームは練習できなかった」。86歳のレジェンドが明かした不完全な自らの姿と忍耐の教訓は、重圧と不安を抱える未来のスターたちにとって、どんなスウィング理論よりも価値のある、温かく力強い「金言」として彼らの心に深く刻まれたことだろう。

撮影/岩本芳弘


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