LPGAツアー唯一のチーム戦「ダウ選手権」。ここで、アメリカ出身のジーナ・キム(26歳)とヤナ・ウィルソン(19歳)のペアが通算17アンダーで見事にツアー初優勝を飾った。下部ツアー(エプソンツアー)からの叩き上げである二人が手にしたのは、栄光のトロフィーだけではない。それぞれ約40万ドル(約6000万円)というビッグマネー、そして何より「未来の安心」だ。彼女たちの優勝会見は、プロの過酷な現実とZ世代特有の軽快なノリ、そしてアスリートとしての凄みが交錯する、実に痛快なものだった。

過酷なサバイバルからの脱却。リアルすぎる「本音」

シード権や出場権を持たない若手選手にとって、ツアーを戦うことは想像を絶する過酷なサバイバルである。今回の優勝により、2年間のシード権と今後のメジャー大会(エビアン選手権など)への出場権を一気に手にしたキムは、マイクの前で飾らない“リアルすぎる本音”を吐露した。

「もう予選会(マンデーなど)に出なくていいのが本当に嬉しい。以前、ローズ・ジャンと予選会でプレーオフをした時、『いつか予選会に出なくて済むようになるのが私の夢だ』って彼女にこぼしたの。膝も股関節も、とにかく体のすべてが痛かった。予選会をスケジュールに組み込まなくていい生活がずっと理想だったの」

直近の3試合連続で予選落ちを喫し、もがき苦しんでいたキムにとって、この1勝はまさに起死回生だった。「大げさに聞こえるかもしれないけれど、この優勝で私のキャリアの軌道は完全に変わったわ」と、安堵の表情を見せた。

震える体と極限の重圧を乗り越えた「19歳の新ヒロイン」

一方のヤナ・ウィルソンは、19歳9カ月24日という今シーズン最年少での優勝だった。同時に、今季初のルーキー(新人)優勝者でもある。この歴史的な快挙は決して運だけで手にしたものではなかった。

【動画】ジーナ・キム、5番ホールのショットインイーグル【LPGA公式X】

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最終日の5番(パー5)で、キムが予想外のイーグルを奪い「その日の流れを決定づけた」と振り返るが、真の試練はその後に待っていた。優勝を争う終盤の17番ホールで、対戦相手(チェ・ヘジンら)がピンそばにピタリと寄せる絶体絶命のピンチを迎えたのだ。

【動画】ヤナ・ウィルソンが「手が震えた」と話す17番のバーディパット【LPGA公式X】

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その時の心境を、ウィルソンは「絶対に自分が(バーディパットを)決めなきゃいけないと分かっていて、ボールの上で文字通り体が震えていた」と明かしている。しかし彼女は、その極限の重圧を跳ね除けて見事にバーディパットをねじ込んだ。若さの裏に隠された「勝負師」としての凄みを見せつけた瞬間だった。

「芝生破壊兵器」とカニエの歌詞。Z世代全開のユーモア

画像: 優勝したジーナ・キム(右)とヤナ・ウィルソン(左)。エプソンツアーでともに戦ってきた仲間だ(写真/LPGA, Getty)

優勝したジーナ・キム(右)とヤナ・ウィルソン(左)。エプソンツアーでともに戦ってきた仲間だ(写真/LPGA, Getty)

そんな過酷な死闘をサバイブしてきた苦労人でありながら、彼女たちの素顔は極めて現代的でユーモアに溢れている。

大会を盛り上げる2人のチーム名は「Weapons of Grass Destruction(芝生破壊兵器)」という何とも物騒でユニークなもの。実はこのネーミング、生成AIの「ChatGPT」とキャディのエリックが考案したものだという。「私たちの楽しくて軽いエネルギー、そして『コースを破壊するぞ』っていうモチベーションを完璧に表してくれた」と笑い飛ばす。

さらに、土曜日の18番ホールで流れる入場曲には、カニエ・ウェストのヒップホップナンバー「Can't Tell Me Nothing」をチョイス。19歳のウィルソンは「『お金が入るまで待ってて(wait until I get my money right)』というフレーズが好きなの」と明かす。実際、優勝インタビューで「約40万ドルの小切手を手にする気分は?」と問われたウィルソンは、即座に「お金が入るまで待ってて!」とカニエの歌詞を引用し、会場を爆笑の渦に巻き込んだ。

物欲と社会貢献のギャップが魅せる新たなヒロイン像

ビッグマネーの使い道について聞かれると、キムは「もちろん自分へのご褒美に素敵なものを買うつもりよ!」と目を輝かせ、すかさずウィルソンが「当然よ。ブレスレットや指輪を買わなきゃ!」と合いの手を入れる。

しかし、等身大の物欲を見せる彼女たちには、誰かのために戦う真摯な「もう一つの顔」もあった。その思いを引き出したのは、大会中に寄り添ってくれたあるファンの存在だ。スポンサーのダウが支援するチャリティ団体の女性2人が、手作りのボードを掲げ、風雨のなか全18ホールを歩いて彼女たちを応援し続けてくれたのである。

キムとウィルソンは、ダウの支援が団体にどれだけ役立つかを彼女たちから直接聞かされ、大きな感銘を受けた。

「彼女たちは私たちの『幸運のお守り』だった。もっと良いプレーをして寄付に貢献したいとモチベーションが上がった」

高額な賞金にはしゃぐZ世代の素顔の裏には、自分たちを応援してくれる人々のために戦うアスリートとしての責任感が確かに存在していた。

泥臭い下積み時代の苦労を乗り越え、極限のプレッシャーを跳ね返し、最高の結果を掴み取った二人。自分たちのご褒美(ジュエリー)を無邪気に喜ぶZ世代の素顔と、社会貢献への真摯な思いを併せ持つ新ヒロインコンビの誕生は、女子ゴルフ界に新たな風を吹き込んでくれるに違いない。


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