「完璧主義」を手放し、変化を楽しむしなやかさ
実は彼女たちのチームは、初日のフォアサム(交互打ち)で「75(5オーバー)」と大きく出遅れていた。しかし、2日目のフォーボール(ベストボール)で「62(8アンダー)」という猛チャージを見せて予選を通過し、最終日も「65(5アンダー)」と怒涛のバーディラッシュを見せてトップ10に食い込んだのである。「限界の妊婦」でありながら、決して諦めずに親友と助け合って這い上がる、アスリートとしての確かな底力を見せつけた一週間だった。
トップレベルのツアー競技において、妊婦として戦い続けることは決して容易ではない。ラウンド後の会見で「妊娠中のプレーで最も大変だったことは?」と問われたサグストロムは、率直な苦労を明かした。
「一番大変だったのは、やはりスタミナの問題ね。毎日4時間から6時間、重い体をひきずって歩き続けることは本当に過酷だったわ」
しかし、彼女はただ耐え忍んでいたわけではない。「では、一番楽しかったことは?」という問いに対し、プロゴルファーとしての探究心が光る答えを返した。
「一番楽しかったのは、実は体型の変化に合わせて様々な調整(アジャスト)をすることだったの。クラブのセッティングも全部変えたわ。今朝もパッティンググリーンで、『今はパターのグリップをお腹の上に乗せて構えるべきか、それともお腹の横に避けて構えるべきか』なんて試行錯誤していたくらいよ。常に完璧なスウィングを求めるゴルフから一旦離れて、体の変化に柔軟に対応しなければならないプロセスが、とても楽しかったの」
完璧主義を手放し、変化を受け入れて楽しむ。そのしなやかなマインドセットこそが、彼女がトッププロとして輝き続けられる理由だろう。
限界の妊婦を救った、大親友との胸を打つドラマ
そして、この特別な一週間を温かく包み込んだのが、女子ツアーならではの「ファミリー感」と「親友との絆」だった。

LPGA唯一ペア戦「ダウ選手権」を親友であるダニ・ホルムクイスト(左)と組んだマデリン・サグストロム(右)
サグストロムは、隣で微笑むパートナーのホルムクイストを見つめながら語った。
「チーム戦のプレッシャーもあるけれど、誰かが常に自分の背中を守ってくれているという感覚は本当に特別よ。自分のボールと同じくらい、パートナーのボールにもカップに入ってほしいと心から願うの」
この言葉を裏付ける、胸を打つドラマが最終日のコース上で起きていた。
実はフロントナインで、サグストロムはついにスタミナの限界を迎えていた。「左へのミスが出始めた時、『ああ、もう潮時(限界)ね』と思った」と彼女は明かしている。
しかし、そこでパートナーのホルムクイストが奮起した。バックナインで力強いプレーを見せて限界のサグストロムをカバーし、見事にチームのスコアを10アンダーまで引っ張って有終の美を飾らせたのだ。
ホルムクイストは、2人の関係について「アマチュア時代にヨーロッパ選手権や世界選手権を一緒に勝ち取った頃に戻ったような気分だった」と振り返っている。若き日から苦楽を共にしてきた大親友だからこそ、産休前という特別な舞台のパートナーに選ばれ、そして最後まで彼女の背中を守り抜くことができたのだろう。
選手としてだけでなく、チームとして助け合って戦う姿を、ツアーの仲間たちやキャディ、ギャラリーが心から応援していた。
子供たちの歓声に包まれて。母として再びツアーへ
試合の勝敗を超えて、新しい命を宿した選手をツアー全体で温かく送り出すこのコミュニティの美しさが、ダウ選手権を一年で最も楽しい大会にしている。サグストロムはさらに、もう一つの大会の魅力を付け加えた。
「この大会はチケット価格も手頃で、仕事終わりの家族連れや子供たちがたくさん見に来てくれる。(会場に来ている家族連れを見ると)たぶん、子供たちよりも親のほうがゴルフを愛して楽しんでいるんでしょうけどね(笑)。でも、子供たちにインスピレーションを与える素晴らしい大会よ」と、ユーモアを交えながら笑顔で語っている。
間もなく母になる彼女にとって、子供たちの歓声に包まれたこの大会は、産休前のラストマッチとしてこれ以上ない完璧な舞台だったに違いない。
「復帰は来年の3月か4月頃、アメリカ本土での試合を目標にしているわ」と、力強く未来の展望を語ったサグストロム。母という新たな強さを手に入れた彼女が、再び華やかなツアーの舞台に帰ってくる日を、ファンも仲間たちも温かく待ち望んでいる。
写真/Getty Images
