2026年の米女子ツアーメジャー第3戦「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」の開幕を控え、公式会見に現れた2人のトッププロ。2023年大会覇者のイン・ルオニンと、悲願のメジャー初制覇を狙う世界ランク2位のジーノ・ティティクルだ。対照的な魅力を持つ彼女たちが口にしたのは、完璧なアスリートとしての建前ではなく、極限状態のなかで葛藤し、決断し、感情と向き合う「生身の人間」としてのリアルな本音だった。

インの大胆な決断「昨日ドライバーを替えた」

今大会を迎えるにあたり、イン・ルオニンは出場選手のなかで最も好調な選手として注目を集めている。直近5試合のストローク・ゲインド・トータル(SG: Total)は「+2.67」という圧倒的な数値を叩き出しており、状態はまさにピークにある。ところが会見で、彼女は驚くべき事実をあっけらかんと明かした。

「昨日、ドライバーのヘッドを替えたの(笑)」

絶好調のさなかに、しかもメジャー前日に最も重要なクラブを変更する。一見すると耳を疑うギャンブルのような決断だが、彼女のプレースタイルは極めて堅実だ。データ分析によると、彼女はメジャー大会においてボギー以上のスコアを叩く確率がわずか15%であり、これは今大会の出場選手のなかで最も低い(ミスが少ない)数値である。

では、なぜそんな堅実な選手がリスクを冒すのか。理由は極めて専門的でロジカルだ。

「リビエラでの大会(メジャー第2戦「全米女子オープン」)では風の影響でボールがカーブしすぎて、ティーショットが良くなかった。新しいヘッドはより狙ったラインに打ち出しやすくて、好きなだけカットボールを打てるから」

画像: 全米オープンではキャロウェイ「クオンタム ♦♦♦ ドライバー」を使用していたイン・ルオニン(写真/USGA)

全米オープンではキャロウェイ「クオンタム ♦♦♦ ドライバー」を使用していたイン・ルオニン(写真/USGA)

大一番直前のギア変更に不安はないのか。その問いに対し、彼女は全く意に介さず言い切った。

「自分のゲームを良くするものであれば替える。慣れるのに時間はかからないわ。それに、リビエラでは6番アイアンを、ミズホ(アメリカス・オープン)やシェブロン選手権でもドライバーを変更したしね」

メジャーで誰よりもミスをしない堅実な選手が、勝つために息をするように当然のこととしてクラブを替える。絶好調に甘んじないこの強心臓こそが、メジャー覇者の凄みである。

ティティクルの「大丈夫じゃない」メンタル術とメジャーへの渇望

一方、イン・ルオニンの親友で世界ランク2位の実力者ジーノ・ティティクルは、現在「現役のLPGAツアーメンバーのなかで、メジャータイトルを持たない選手として最多の通算9勝」を挙げている。今大会もデータ分析モデルで優勝確率10%(全体2番手)と予測されるなど、常に「いつメジャーで勝つのか」という途方もない重圧と期待に晒されている。

しかし、会見でその重圧について問われると、彼女はトップアスリートとしての確固たる芯の強さを見せた。

「他の誰かに『いつ勝つべきか』を決められたくはありません。自分のパフォーマンスやゲームの質が『今がメジャーチャンピオンになる時だ』と教えてくれるのを待っています」

そんな冷静にメジャー制覇を見据える彼女だが、コース上では生々しい感情を見せることもある。大舞台での重圧といかに向き合うかについて、彼女はキャディとの深い信頼関係を明かしてくれた。

アマチュア時代から長くコンビを組むキャディは、彼女を知り尽くしている。しかしプレーが上手くいかない時、キャディから安易に「大丈夫(It's okay)」と慰められると、彼女はあえてこう言い返すのだという。

「『まだ大丈夫じゃない』って(彼に)言うの。まずはその瞬間(のフラストレーション)を少し吐き出させてほしい。そうすれば、すぐに『大丈夫』に戻るから」

画像: 23日のプロアマのラウンド中のジーノ・ティティクル(写真/Getty Images)

23日のプロアマのラウンド中のジーノ・ティティクル(写真/Getty Images)

無理にポジティブを装うのではなく、まずはネガティブな感情を素直に吐き出す。それが彼女の飾らないリアルなメンタル術なのだ。記者から「もし彼(キャディ)がネガティブになったらクビになるか?」と冗談めかして問われると、彼女は笑って答えた。

「彼はよく分かっているわ。そうじゃなきゃクビになるもの(笑)」

長年の絆があるからこその、ユーモアに溢れた関係性だ。

ヘーゼルティンの極限状態が見せる、人間味あふれるトッププロの戦い

画像: 23歳と同い年で、クラブ契約も同じのインとジーノ。ツアーの合間に街歩きを一緒に楽しむほどの仲良し

23歳と同い年で、クラブ契約も同じのインとジーノ。ツアーの合間に街歩きを一緒に楽しむほどの仲良し

彼女たちがギリギリの決断や感情のコントロールを強いられる背景には、今大会の舞台となるヘーゼルティンナショナルゴルフクラブの過酷さがある。例えば、後半の出だしとなる10番ホール(パー4)は、フィールドの34%がボギー以上を叩くというコース屈指の難関だ。

わずかなミスや風の計算狂いが即座にボギーに直結するヘーゼルティンだからこそ、彼女たちは道具に1ミリの妥協も許さず、感情の揺れを即座にリセットしなければならないのである。

精密機械のようにピンを射抜くトッププロたち。しかしその内面では、メジャーという途方もない重圧のなかで悩み、決断し、自らの感情をコントロールしようともがく「生身の人間」なのだ。過酷な舞台で彼女たちが見せる人間味あふれるドラマ。それこそが、メジャー大会のもう一つの見方なのである。


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