唯一の“鬼門”を攻略するための決断
なぜ彼女が秘密兵器を導入してまで、今大会の極限のコースマネジメントにこだわっているのか。その背景には、切実な理由がある。
2020年に「全米女子オープン」を制しているキム・アリムだが、公式の大会ノートによれば、彼女は5つのメジャー大会のうち4つで「トップ5入り」を果たしている屈指の実力者だ(全米女子オープン優勝、アムンディ・エビアン選手権3位タイ、AIG女子オープン4位タイ、シェブロン選手権4位タイ)。
しかし、唯一この「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」だけは、過去の最高成績が30位タイ(2024年)であり、直近5大会中3度も予選落ちを喫するなど、彼女にとって唯一の“鬼門”となっていた。過去に唯一攻略しきれていなかったメジャーを制覇するため、彼女は「秘密兵器」に頼る決断をしたのである。
「ChatGPT」が弾き出したベストスポットとコースの罠
彼女が今週の最大のテーマとして掲げているのが「マネジメント」だ。「どこがより良いスポット(落とし所)か、ミスをするならどのスポットが良いか」に極限まで集中してプレーしているという。
今大会の舞台となるヘーゼルティンは、少しの計算狂いでたちまちトラブルに陥る難コースだ。イン・ルオニンやロッティ・ウォードといった選手たちも「グリーンが非常に硬く、ラフがとても深い(厚い)」と警戒を強めていた。
ラウンド後の公式会見。このタフなコースを攻略するためのマネジメントの秘密を問われると衝撃的な言葉が飛び出した。
「実は私、ChatGPTを使っているんです」
メジャー大会のコース攻略に、なんと最新の生成AIを導入しているというのだ。
「ChatGPTのおかげで、コース内のどのスポットが他の場所よりも有利なのかをすでに把握しています」
少しのミスで深いラフに捕まるヘーゼルティンにおいて、AIが膨大なデータから導き出した「安全なミスの落とし所」が、いかに絶大な効果を発揮しているかがわかる。
ショットの不調をカバーした「67」の凄み

ショットの調子はイマイチと話していたが3位タイと好発進したキム・アリム
驚くべきことに、本人は初日のプレーを振り返り「今日はショット自体はあまり良くなかった」と語っている。調子が万全でなくとも、「AIが教えてくれた『素晴らしいスポット』にボールを運ぶことができた」ことが、好スコアを生み出した最大の要因なのだ。
データを見ても、彼女はこの日「6バーディ、1ボギー」という非常に安定したゴルフを展開している。ショットの不調をAIの頭脳で完全にカバーし、メジャーの大舞台で叩き出した「67」というスコアは、彼女のメジャー大会における「67以下」のラウンドのキャリア通算7回目となる快挙だった。
トッププロによる生成AIの活用はキム・アリムにとどまらない。先日行われた「LIVゴルフ・コリア」では、あのブライソン・デシャンボーが大会中に陥ったスウィングの不調を生成AIに相談。「アルファ・トルク」などの物理学的な観点からAIと議論を交わし、「グリッププレッシャーを緩める」という解決策を導き出して見事にスランプを脱出し、チームを優勝に導いたエピソードも記憶に新しい。
トッププロが生成AIを本格的な「参謀」として実戦投入し、見事にキャリアベスト級の好スコアや優勝という結果に結びつけている。この事実に、ゴルフの戦い方そのものが劇的に変わる可能性を垣間見た気がした。
パッティングのシンプル思考とネリー・コルダへのリスペクト
最先端のテクノロジーを駆使したデータ戦略を練る一方で、ひとたびグリーンに上がれば、彼女の思考は驚くほどシンプルになる。
「パッティングの目標は、良いスピードと良いライン。ただそれだけです」
頭の中の複雑な情報をクリアにし、感覚を研ぎ澄ませることが好調なパットを生み出している。
また、会見ではライバルへの素直なリスペクトも口にした。今季圧倒的な強さを見せているネリー・コルダについて問われると、「今年の全米女子オープンは本当に印象的でした。第1ラウンドは素晴らしいスタートとは言えなかったのに、そこから巻き返して優勝した。私にとって本当に素晴らしい瞬間で、あの勝ち方が大好きです」と笑顔で称賛。強敵のタフなメンタリティから、ポジティブな刺激をたっぷりと受け取っている。
AI時代の新たなメジャー・チャレンジャー
ChatGPTというかつてない頭脳を携え、メジャーの難コースを丸裸にしようと試みるキム・アリム。この最新鋭のアプローチが、4日間の長丁場でどこまで通用するのか非常に興味深い。
大注目の翌日に向けてどのように備えるのかと聞かれると、「よく寝て、たくさん食べて、アイスバスに入ります」と、なんとも人間らしくリラックスした答えが返ってきた。AIの冷徹なデータ分析と、人間のシンプルで温かみのある素顔。その絶妙なバランスを持つ新たなメジャー・チャレンジャーから、今週は目が離せない。
写真/PGAオブ・アメリカ
