暗雲を振り払った13番のチップインバーディ
この日のラウンドは決して平坦なものではなかった。前半を1アンダーで折り返した松山は、中盤の難所に足元をすくわれている。11番(パー3)、12番(パー4)で手痛い連続ボギーを叩き、一時はスコアを落としてしまった。
ビッグスコアが続出する今大会において、中盤でのスコア後退は致命傷になりかねない。しかし、その重苦しい暗雲を完全に振り払ったのは、直後の13番(パー5)で飛び出したチップインだった。
見事にチップインバーディを奪取したこのターニングポイントについて、松山は「ゴルフ自体はさほど変わらないんですが、ああいう何かいいプレー、気分が乗るようなものが出てこないとって感じですね」と振り返っている。
【動画】「これぞ松山!」13番のチップインバーディ【U-NEXTゴルフ公式X】
@UNEXT_golf post on X
x.comこの「気分が乗るような」起爆剤で息を吹き返した松山は、終盤の15番(パー4)、16番(パー3)、17番(パー4)で圧巻の3連続バーディを奪い、リーダーボードを再び力強く駆け上がっていった。
「変なところで打つ練習」が生きる世界トップのリカバリー力
この3連続バーディの口火を切った15番のセカンドショットには、松山の類まれなる技術と、彼らしいユーモアが詰まっていた。
そもそもこの15番ホールについて、第2ラウンドで首位に立った世界No.1のスコッティ・シェフラーは、会見で「15番はワンオンも狙えるパー4であり、素晴らしいショットが必ず報われるホールだ」と語っている。本来ならティーショットでグリーン近くまで運び、楽にバーディを奪いたいチャンスホールだ。
しかし松山は、「変なところ(理不尽なトラブル状況)」に打ち込んでしまった。絶体絶命のピンチかと思われたが、彼はそこから圧倒的な技術でねじ伏せ、見事にバーディをもぎ取ってみせたのである。
U-NEXTゴルフのインタビューでこのリカバリーショットについて問われると、彼は思わず「そうですね(笑)」と笑顔を見せ、こう答えている。
「ああいうのは練習で変なところから打っていないとうまくいかないと思います。(うまくいって)良かったと思います」
常にストイックに完璧なスウィングを追い求める松山は、「変なところ」からの理不尽なトラブルショットをも想定し、泥臭く練習を重ねている。その地道な準備が、土壇場でのスーパーリカバリーを生み出しているのだ。
【動画】「年間最優秀リカバリー賞有力候補」!? 松山が15番で魅せたスーパーアプローチ【PGAツアー公式X】
@PGATOUR post on X
x.com本人の言葉を裏付けるように、第2ラウンドの公式スタッツを見ると「SG: Around The Green(グリーン周りの貢献度)」において全体4位となる「1.279」という驚異的な数値を記録している。いかなるピンチに陥ってもリカバリーしてみせる、世界トップクラスの底力をデータが見事に証明している。
スタッツが証明する「ショットの復調」と週末の爆発の予感
「内容が良くなっている」という松山の感覚は、決して気のせいではない。スタッツの詳細データが、それをより雄弁に物語っている。
特筆すべきはショット面の劇的な改善だ。グリーンを狙うショットの精度を示す「SG: Approach to Green」は、初日の46位(-0.286)から、第2ラウンドでは全体18位となる「1.041」へと急上昇。さらにパーオン率(Greens in Regulation)に目を向けると、初日の72.22%(13/18)から、第2ラウンドでは83.33%(15/18)へと見事な向上を見せている。

ジャパンブルーの入ったウェアで2日目に挑んだ松山英樹。代名詞ともいえる「ショット」が復調
一方で、第2ラウンドの「SG: Putting(パットの貢献度)」は「-1.661」で全体59位と、グリーン上で苦戦したことがはっきりとデータに表れている。
しかし、ここに逆襲のヒントが隠されている。同ラウンドで「60」を叩き出し首位に立ったシェフラーのパット貢献度は、全体1位の「4.841」という驚異的な数値だった。つまり松山は、グリーン上でシェフラーに「約6.5打分」もの大差をつけられながらも、83.33%という圧倒的なパーオン率(ショット力)だけで上位に食らいついていることになる。
もし週末にパットのフィーリングが首位陣並みに噛み合えば、松山も「60」や「61」といった異次元のスコアを叩き出すポテンシャルを十分に秘めているのだ。
シグネチャーイベントの週末へ。逆襲のシナリオ
ショットの復調という強力な武器と、グリーン周りの絶対的なリカバリー力を手に、松山英樹は勝負の週末へと向かう。
もちろん、課題から目を背けてはいない。インタビューで彼は「最初と中盤と終わりの流れがつかめないまま終わってしまっているので、そこをつなげていけるようにしたい」と、スコア停滞の要因を極めて冷静に分析している。
流れさえつかめば、爆発する準備はできている。インタビューの最後に残した言葉から、静かな自信が感じ取れた。
「いい状態になっていると思うんで、流れをつかんでいきたいと思います」
スタッツが証明する確かなショットの復調と、苦境を跳ね返す強靭なメンタリティ。ムービングデーと呼ばれる第3ラウンドで、松山英樹がどのような「逆襲のシナリオ」を見せてくれるのか。大いに期待したい。
写真/Getty Images
