プロの優勝インタビューでよく耳にする「ありがとうございます」という言葉。単なるマナーと思われがちだが、実はこの感謝の心こそが、人間の潜在能力を極限まで引き出す最強のメンタルキーだった。メンタルコーチの赤野公昭氏によれば、感謝は過剰な「思考」を抑制し、心と身体をスムーズに連動させる働きを持つという。逆に「良いスコアを出したい」という結果への執着や欲に囚われているとき、感謝の心は消え失せ、スウィングの下降線が始まってしまうのだ。前半では、ケガや病気、挫折といったどん底を経て「再びゴルフができる喜び」に目覚め、見事な躍動を魅せた岩田寛、河本結、片山晋呉、小祝さくららの実例を紹介。内側から自然と湧き出る「本物の感謝」がもたらす驚きの効能を紐解いている。週刊ゴルフダイジェスト7月12日号の内容を「みんゴル」でも一部をご紹介します。

「こだわりや執着があると“ありがとう”は出てこない」(赤野氏)

画像: 岩田寛は台風後にコースを仕上げたコース管理の方々には「グリーンも、バンカーもめちゃくちゃ綺麗ですし、川の跡みたいのもないですし。寝ていないと思います」と感謝を重ねた

岩田寛は台風後にコースを仕上げたコース管理の方々には「グリーンも、バンカーもめちゃくちゃ綺麗ですし、川の跡みたいのもないですし。寝ていないと思います」と感謝を重ねた

「人がもっとも力を発揮しているときの心の状態には、感謝が生まれているのです」

こう語るのは、メンタルコーチの赤野公昭氏だ。

「感謝は心で感じるもので、思考と身体をつなぐ働きをします。思考と身体がバラバラになっているとスムーズな動きが生まれません。また、ゴルフというスポーツは思考が多くなりがちですが、感謝が心にあれば、思考にとらわれなくなります。逆説的に言うと、こだわりや執着があるときは絶対に感謝の気持ちは浮かんできません。感謝が浮かんでこないなら、目先の結果や欲にとらわれていることの裏返しなのです」

プロゴルファーを見ていても感じることがあるという。

BMWツアー選手権の最終日最終組を共にラウンドした岩田とコー・タイチ

「たとえば、選手たちが病気やケガから復帰できたときは、再びプレーできる喜びをただ噛みしめて、 その瞬間を全力でプレーしています。この瞬間、自分の身体への感謝、周りへの感謝にあふれています。一方でたとえば絶好調のとき、“当たり前”の状態になっていると、 試合に出られて当然、自分はすごいのに報われていない、すべてが無敵だなどと考えてしまい感謝が浮かんできません。こういうときは残念ながら下降曲線が始まって います」

最近特に印象深かったのは、ケガや病気から復帰した片山晋呉や小祝さくらの言葉だという。

「ゴルフが再びできるようになったことへの感謝を述べていました。ここからまた結果が出てくる のでは。また、今年優勝した岩田寛選手や河本結選手の優勝インタビューも印象的でした。経験が浅い選手が口にする感謝とはやはり違う。岩田選手の言葉は心の奥底から出てくるものでしたし、河 本選手はプレーオフで戦った選手に対しても感謝を述べていました。 ゴルフやライバルへのリスペクト、周りの人への感謝や気遣いが出て、 ゴルフを楽しんでゴルフができることを喜んでいるように感じます」

以前から河本結の変化には注目していたという。

画像: いつもスポンサー、ギャラリーなどに丁寧に感謝の意を伝える河本。加えて、今季1勝目のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップでは家族にも「いつも本当にありがとう」、今季2勝目のリゾートトラストレディスではプレーオフ相手にも「ゴルフっていいな、女子ゴルフっていいな、と改めて思えました」とこちらも感謝を重ねていた

いつもスポンサー、ギャラリーなどに丁寧に感謝の意を伝える河本。加えて、今季1勝目のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップでは家族にも「いつも本当にありがとう」、今季2勝目のリゾートトラストレディスではプレーオフ相手にも「ゴルフっていいな、女子ゴルフっていいな、と改めて思えました」とこちらも感謝を重ねていた

「デビュー当時はイケイケな感じでしたが、どん底の時期を経て、表情が明るく楽になったようです。 思い通りにならないことも受け入れながら一打一打を大切にプレーしているようにも見えます。アメ リカでの挫折が彼女本来の謙虚さ を引き出したのかもしれません」

感謝の心は野球やラグビーなど団体スポーツのほうが生まれやすいと赤野氏。

「仲間がいるからです。仲間がいなければ、自分だけがどんなに頑張っても勝つことはできない。ま た、自分がミスしても周りがカバーしてくれる。お互いに助け合 うことが必要です。一流の選手ほ ど、周りへの感謝に溢れています。これは、感謝を持たなければならないからではなく、自然にそういう心になっているのです」

「ゴルフができることに本当に感謝したい」――小祝さくら

画像: 昨年、左手首のケガで半年ツアーを休業し、その後手術。今シーズン復帰したときに自然と口に出た言葉だ

昨年、左手首のケガで半年ツアーを休業し、その後手術。今シーズン復帰したときに自然と口に出た言葉だ

「ゴルフ場に来てボールを打てることが幸せです」――片山晋呉

画像: 昨年、骨に菌が入る病気で2カ月入院、今年の日本プロで予選を突破した。マネジャーの献身にも感謝していた

昨年、骨に菌が入る病気で2カ月入院、今年の日本プロで予選を突破した。マネジャーの献身にも感謝していた

一方、ゴルフなど個人スポーツは、「自分が頑張ったから勝てたと思いがち。感謝の言葉もときどき表面的に感じることがあります」。優勝インタビューなどで紙を読み上げながら大会主催者、スポンサーやファンなどへの感謝の 気持ちをスラスラと口にするプロも多いが……。

「それだって素晴らしいことです。でもたとえば指導者が『感謝が足りない』と選手を叱っている 場面を見かけます。これも悪いことではありませんが、言わされた 『ありがとう』ではあまり意味がない。大事なことは『ありがたい』 という感謝が自分のなかから出てくる状態をいかに作れるか。確かに、日々厳しい練習やさまざまな 挫折を乗り越えてきたからこそ勝利があります。しかし、勝利の数や賞金の額が自分の強さの証しだと考えているうちは、深い感謝の心は生まれません」

解説●赤野公昭氏

あかのきみあき・1972年岡山県生まれ。世界のアスリートを育てたアメリカのトップメンタルトレーナー、ジョセフ・ペアレント博士に師事。日本古来の「禅」と欧米の最新理論を融合させた独自のメソッドで、プロゴルファーはじめ多くのアスリート、企業人などを指導

PHOTO/ Shinji Osawa、Hiroaki Arihara、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa 

※週刊ゴルフダイジェスト7月12日「ありがとうでゴルフ開眼」より

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続く後半では、禅の言葉「本来無一物」の精神をベースに、見栄や傲慢さを削ぎ落として自分の原点に立ち返るメンタル術をさらに深掘り。技術や飛距離の「ないものねだり」がなぜ不満を生み、本番での実力発揮を邪魔してしまうのか。そして、表現が苦手なアマチュアでも今すぐ実践できる「アドレス時にボールに感謝するコツ」や、コース内でパニックになった頭を瞬時に落ち着かせる「胸に手を当てる思考リセット術」など、明日のラウンドからゴルフの質をガラリと変える具体的なアクションプランは必見!続きは週刊ゴルフダイジェスト7月12日号、Myゴルフダイジェストで掲載中!

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