「圧倒的な支配力」と、心身の疲労
周囲からこれほどまでにグランドスラムへの期待とプレッシャーをかけられるのには、理由がある。彼女は今季すでに、メジャー2勝(シェブロン選手権、全米女子オープン)を含む4勝を挙げており、シーズン開幕から6試合連続で2位以上の成績を収めるという圧倒的な強さを見せている。獲得賞金でもツアートップを独走し、LPGAツアー史上最も稼いだアメリカ人選手となった。これほどの絶対女王だからこそ、周囲の期待も計り知れないものになっている。
しかし、偉業へのカウントダウンが始まる一方で、わずか6週間の間に3つのメジャー大会を戦い抜く過酷なスケジュールは、心身に重い負担を強いている。 「今は睡眠と休息を優先しています。ジムに行きたくなる時もありますが、この時期は休むことのほうが実は有益なんです」
大会前の会見で彼女はそう語り、体を追い込むことよりも回復に努めているという、トップアスリートならではのリアルな本音を明かした。
レジェンドから学ぶ「情熱」と「謙虚さ」
疲労と戦いながらも、彼女を精神的に支え、奮い立たせているものがある。それはテニス界のレジェンドたちの存在だ。プロテニスプレーヤーの両親のもとに育った彼女にとって、ラファエル・ナダルとロジャー・フェデラーは幼い頃からのアイドルだった。

キャリアグランドスラムと殿堂入りに王手をかけているネリー・コルダ
最近、ナダルのドキュメンタリーを観たというコルダは、彼の姿に強く感銘を受けたという。
「彼の回復力(resilience)、闘争心、そしてスポーツへの愛。どんな浮き沈みがあろうと、彼はテニスコートで常に真の最高の自分を見せていました。それができたのは、並外れた情熱があったからです。さらに彼はとても謙虚で、最高に親切。彼には尊敬すべき点がたくさんあります」
彼女はこのナダルの姿勢を、自らのキャリアにも重ね合わせている。
「別の業界であれ、どんなビジネスであれ、やっていることに『情熱』を持たなければならない。そうして初めて、最高の自分になれるのだと思います」
現在、周囲からは同一年のメジャー連勝やグランドスラムといった話題が絶え間なく向けられている。計り知れない重圧の中にいるはずのコルダだが、彼女の口から出たのは悲壮感ではなく、女子テニス界のレジェンド、ビリー・ジーン・キングの名言だった。
「『プレッシャーは特権(Pressure is a privilege)』。そうした話題が上ること自体が素晴らしいことであり、そういう立場に自分を置けていることを誇りに思っています」
特権を主張せず、プレッシャーこそが特権だと受け入れる。その姿勢は、彼女が敬愛するナダルの「謙虚さ」と見事にリンクしている。
エビアンの壁と、ゼロからのスタート
重圧を特権として受け入れる強靭なメンタル。さらに彼女は、ゴルフという競技特有の厳しさについても冷静に語っている。
「ゴルフの場合、世界1位だからといって良い組み合わせのシード権がもらえるわけでも、シードによる免除(bye)があるわけでもありません。毎週、全員がゼロからのスタートなんです」
この「ゼロからのスタート」という謙虚な言葉の裏には、エビアン選手権という舞台が、彼女にとって決して簡単な場所ではないという事実がある。実は、コルダは過去にこの大会へ8回出場しているが、最高順位は2022年の8位タイに留まっているのだ。彼女自身も会見でこう明かしている。
「とても良いショットを打ったのに、全く見当違いの悪い場所にボールが行ってしまうこともある。毎年ここで学んでいるのは、忍耐が鍵だということです。私はまだこのコースを攻略している途中(still figuring it out)なんです」
このコース特有の難しさを知っているからこそ、絶対女王であっても決して驕ることはない。圧倒的な実績とランキングの頂点に立ちながらも、特別扱いはされない厳しいフィールド。テニス界のレジェンドたちから学んだ「情熱」と「謙虚さ」を胸に秘め、ネリー・コルダは今週もゼロから新たな歴史に挑んでいく。
写真/大会提供
