2026年「ISCO選手権」は、通算16アンダーで並んだスティーブン・フィスクとテーラー・ペンドリスによる、同じ18番ホールを繰り返す3ホールに及ぶサドンデスプレーオフという劇的な結末を迎えた。優勝争いという極限状態の中で、選手たちの心と身体には一体何が起きていたのか。試合後の会見で明かされた、三者三様の「重圧の正体」に迫る。

ルーカス・グローバーが吐露した「首位の孤独」

3日目まで首位を守り続け、完全優勝に王手をかけていたのは46歳のベテラン、ルーカス・グローバーだった。しかし最終日、彼は「71(1オーバー)」とスコアを崩し、自己最長となる10ラウンド連続の60台という記録もここで途絶えてしまった。

試合後、彼は疲労の色をにじませながらこう語った。

「首位でプレーするのは本当に難しい。それは自分のプレーの自由を奪ってしまう感覚だ」

数々の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の勝者であっても、「追われる立場」という目に見えないプレッシャーからは逃れられない。スコアを守ろうとする意識が、いつしか本来の滑らかなスウィングから自由を奪い去っていく。

さらに彼は最終日のプレーを振り返り、パターの調子は悪くなかったとしつつも、「ウェッジでグリーンを外したり、12番や13番で6番アイアンを大きく引っ掛けたりと、自分らしくない悪いショットが多すぎた。今日は実行できなかった」と潔く負けを認めた。首位を走る孤独と重圧のリアルさを、ベテランの狂わされたアイアンショットとその言葉が痛烈に物語っている。

テーラー・ペンドリスを襲った身体の異変

その首位の背中を猛烈な勢いで追い上げ、最終日に「65」をマークしてプレーオフへと持ち込んだのがテーラー・ペンドリスだ。しかし、激闘の末に彼は惜しくも力尽きることとなった。

実はこの日、ペンドリスは1番ホールのティーショットをいきなり池に打ち込むという、絶望的なスタートトラブルに見舞われていた。しかし、そこから約4.5メートルのシビアなパットをねじ込んでパーを拾い、ピンチを切り抜けると、2番、3番で連続バーディを奪って見事に立て直してみせた。そんな驚異的な精神力で正規のラウンドを駆け上がった彼だったが、いざ優勝のかかったプレーオフのグリーン上に立つと、まったく別の魔物が牙を剥いた。

敗戦の悔しさの中で、彼は勝敗を分けた極限状態について驚くべき告白をしている。

「(プレーオフ1ホール目と3ホール目の)両方のパットともに、手の手応え(感覚)がまったくなかったんだ」

正規のラウンドでは池ポチャからでも冷静にカムバックできたトッププロが、あと一歩で優勝に手が届くという瞬間に、容赦なく身体の感覚を奪い去られてしまう。プレッシャーが引き起こすこの残酷な身体的異変こそが、勝負の世界の恐ろしさなのだ。

フィスクの逆転劇を支えた「プレーオフの解放感」

そんな極限状態のプレーオフを制し、見事ツアー通算2勝目を手にしたスティーブン・フィスク。彼の勝因は、意外にもプレーオフ特有の「解放感」にあった。

「正規の18ホールのほうが、確実に緊張していたよ」と彼は明かす。

「プレーオフに入ってしまえば、もうマッチプレーのようなもの。すでに素晴らしい成績(2位以上フィニッシュ)は確定しているわけだし、失うものは何もない。ただ勝ちに行くだけだと思えるからこそ、むしろ落ち着くことができたんだ」

画像: ウィニングパットを決め、力強く右拳を握りしめるスティーブン・フィスク

ウィニングパットを決め、力強く右拳を握りしめるスティーブン・フィスク

スコアを守らなければならない正規ラウンドの呪縛から解き放たれ、ただ勝つことだけを考えればいいという心理的な逆転現象。しかし、彼の勝因は単なる「開き直り」や「メンタルの切り替え」だけではなかった。

実はフィスクは、前日の第3ラウンドでショートパットに苦しんでいた。そのため、土曜日の夜は夜8時近くまで、約45分間も一人でグリーンに居残り、プレッシャーがかかった状態でもストロークを乱さないよう「グリッププレッシャーを少し軽くする」練習を猛特訓していたのだ。重圧を「攻めのマインド」へと変換できた背景には、そんな泥臭い事前準備という技術的な裏付けがあった。それこそが、チャンピオンの強さの真髄だろう。

数字の裏に隠された人間味あふれるドラマ

スコアカードの数字だけでは決して見えない、選手たちの生々しい心理戦。重圧に呑まれる恐怖と、それを超越した瞬間の輝き。完璧に見えるプロフェッショナルたちが見せる、泥臭くも人間らしい葛藤こそが、ゴルフというスポーツに惹きつけられてやまない最大の魅力なのだろう。

写真/Getty Images


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