メジャーで1度もトップ10に入ったことがない男が首位タイで迎えた最終ホール。ティに立ったととき彼はキャディに「ここで勝ちに行こう」と囁いた。
完璧なティーショットでフェアウェイを捉え完璧なセカンドショットでバーディチャンスを演出。そして驚くような素早さでカップの左端からパットを決めると、ラグビーのニュージーランド代表オールブラックスの選手だった父譲りの太い両腕を突き上げ歓喜の雄叫びをあげた。
「手が震えるほど緊張していて、正直最後のパットをどう打ったのかよく覚えていません。ただカップの方向に行けばいいと思っていたのが入ってしまった。まるで夢を見ているようです」とフォックス。
優勝争いの渦中でもいつもと変わらぬ早いテンポ。スロープレーの対局。見る側が「えっ? もう打っちゃうの?」と思うほど小気味いいスタイルだ。
「昔からショットのイメージが湧いたらすぐ打つタイプ。あれこれ考えると悪い思考に陥ってしまいますから」
フォックスのバーディで18番に大歓声が湧き上がった瞬間、2時間も前に『64』をマークしクラブハウスリーダーの座を守り続けたキャメロン・ヤングの優勝は無くなった。プレーオフに備えて練習していた手を止め落胆した表情でドライバーにヘッドカバーをかけた。そし何も語らずコースを去った。その後ろ姿が傷心の深さを物語っていた。

39歳でメジャー初制覇を果たしたライアン・フォックス
39歳での全英OP制覇は10年前にヘンリク・ステンソンが40歳でトロフィーを掲げて以来の年長優勝。ニュージーランド人の勝利は1963年のボブ・チャールズ、05年にタイガー・ウッズを破って戴冠したマイケル・キャンベルに続く史上3人目。
05年にタイガーのキャディを務めていたスティーブ・ウィリアムスはフォックスと同じニュージーランド人。1999年から2011年までタイガーのバッグを担ぎメジャー13勝をアシストした名キャディは最近ゴルフと無縁で中継をテレビで見ることさえないというが今回だけは別だったことを米ゴルフダイジェストに電話で語った。
「ライアン(フォックス)とは彼がアマチュアだった頃からの知り合い。個人的に繋がりのある選手が活躍する姿を見ると感慨深いです」
3日目にフォックスが『62』をマークしたときは「興奮しました。その勢いのまま優勝したことにも感銘を受けた。いいゴルフの次の日に勝ち切るのは簡単じゃないから。そもそも彼にはメジャーで勝てるだけの実力があった。必要なものはすべて持っていると励まし続けてきました。この優勝は彼に相応しいものです」。
最終日の前夜フォックスはフロリダにいる家族に電話し2人の娘に「トロフィーを持ってきて」とねだられていた。
勝った直後アテスト場で彼はFaceTimeでイゾベルちゃんとマーゴちゃんに「トロフィーを手に入れたよ!」と報告した。
「この優勝は僕にとってすべてを意味します」
激闘を制した伏兵は手にしたクラレットジャグを愛しそうに眺め続けた。
写真/R&A提供
