昨年の「AIG女子オープン」で劇的な優勝を飾り、世界中を驚かせた山下美夢有が、今度は追われる立場である「ディフェンディングチャンピオン」として、再びイギリスの地に降り立った。今年の舞台は、無数のバンカーと海風が待ち受ける名門、ロイヤルリザム&セントアンズである。今大会で山下が優勝すれば、2011年のヤニ・ツェン以来、実に15年ぶりとなる大会連覇という歴史的偉業となる。しかし、開幕を控えた公式記者会見に臨んだ彼女の表情に、メジャー連覇という重圧に押しつぶされそうな気配は微塵もなかった。

プロを目指した原点「タイガー・ウッズ」

「ヤニ・ツェンが2011年に勝ったのはもちろん素晴らしい実績です。でも私自身は、再びここに戻ってきて、ディフェンディングチャンピオンとしてこの場にいられるチャンスを持てたことを本当に楽しみにしています。今週はただ、自分のゴルフとパフォーマンスに集中するだけです」

重圧すらも歓迎し、前向きなエネルギーへと変える。王者の風格を漂わせる彼女の視線は、すでにリンクスとの戦いに真っすぐ向けられていた。

海外の強豪たちが集うメジャーの舞台に堂々と立ち、頂点で競い合う。山下が思い描いていたこの光景の原点は、幼い頃の記憶にあるという。憧れの選手について問われると、彼女は目を輝かせてこう語った。

「一番古い記憶は、子どもの頃にテレビでタイガー・ウッズを見ていたことです。ずっと彼を見るのを楽しんでいました。そしてその瞬間から、『いつかツアーに出て、世界のトップ選手たちと戦いたい』と思うようになったんです」

タイガーの圧倒的なプレーに心を奪われた少女は、今やメジャーチャンピオンとしてトッププロたちと肩を並べている。

「LPGAのトッププロたちと競い合い、このようなトーナメントでプレーできることは本当に感謝していますし、心から楽しんでいます。ここにいるときには、その感謝を忘れないようにしています」

大舞台に立つ喜びと感謝の念が、彼女のゴルフをさらに強く後押ししているのだ。

「飛ばない」からこそ磨き上げた武器と徹底したコースマネジメント

しかし、待ち受けるロイヤルリザムのコースは決して甘くない。今大会は全長6585ヤード、パー72の設定だが、その真の難しさはヤーデージには表れない。

「第一印象は、とにかくバンカーが多いこと。そして海に近いので風がとても強い。間違いなく大きな挑戦になります」と山下自身も警戒を強めている。 さらに、大会初日の木曜日は風速約5〜8m、最大瞬間風速は約11〜12.5mに達する強風が予報されており、リンクス特有の荒天が選手たちを待ち受ける。

2009年に同コースで全英を制したカトリオナ・マシューが、「全英のローテーションの中で最もバンカーが効いているコースの一つ」「フェアウェイバンカーに入ると、実質的に1打罰(ストロークと距離)を失うようなもの」と語るように、このコースのバンカーは致命傷になり得る。

海外のパワーヒッターたちに比べ、飛距離で劣る彼女が、このタフなリンクスをどう攻略するのか。その答えは、彼女自身が極限まで磨き上げてきた緻密な技術にある。

「おっしゃる通り、私は飛ぶほうではありません。だからこそ、ショートゲームとパッティングが自分にとってとても重要になります。そして何より、距離感を正確にすることに細心の注意を払ってきました。それが自分のゲームを大いに助けてくれているんです」

力任せではなく、卓越した小技と精緻な距離感で風を読み、バンカーを避けながらコースを攻略する。自身のプレースタイルを完全に掌握しているからこその、揺るぎない自信がそこにはある。

家族のサポートという最大の強みと日本からの追い風

厳しい戦いの中で、彼女を支える最大の拠り所となっているのが「家族」の存在だ。昨年の優勝時は、現地で家族と一緒に祝えたことが何よりも大きな喜びだったと振り返っている。

そして今年は、プロゴルファーである弟・勝将が、彼女の海外での試合に初めて同行している。

「父が私たち二人のコーチで、普段から家で一緒に練習しているんです。弟にも今週の雰囲気を楽しんでほしいし、彼も私もこの一週間をとても楽しみにしています」

コーチである父親と、切磋琢磨する弟。アットホームでリラックスした環境が整っていることは、メジャーの重圧を跳ね除ける上で計り知れないプラスに働くだろう。

また、昨年日本へ帰国した際の反響も、彼女の背中を力強く押している。

「想像以上の反響があり、本当に多くの方が応援してくれたことに驚きました。自分が想像していた以上の素晴らしいサポートをいただき、心から感謝しています」

母国からの熱いエールと、家族の温かいサポートを背に受けて、彼女は静かにティーオフの時を待つ。

いざ、歴史的快挙へ

画像: ディフェンディングチャンピオンとして公式会見に臨んだ山下美夢有

ディフェンディングチャンピオンとして公式会見に臨んだ山下美夢有

「素晴らしいペアリング(ジーノ・ティティクル、ローレン・コフリン)で明日が待ちきれません。とにかく早くスタートしたいです」

会見の最後、山下は純粋な挑戦者のような笑顔でそう締めくくった。山下の第1ラウンドは、現地時間の7月30日13時15分(第36組/日本時間の21時15分)にスタートする。

最大瞬間風速10メートルを超える強風が吹き荒れる予報のリンクスコースで、彼女は過度な気負いもなく自然体だ。しかし、その内面にはタイガー・ウッズに憧れた少女の熱い情熱と、世界最高峰の小技という強力な武器が秘められている。

15年ぶりの大会連覇という、誰も成し遂げられなかった歴史的快挙へ。準備を万端に整えたディフェンディングチャンピオンの一戦がいよいよ始まる。

写真/R&A提供


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