イングランドのロイヤルリザム&セントアンズで開催された「AIG女子オープン」。エスター・ヘンセレイト(ドイツ)とのプレーオフを制し、メジャーの頂点に立ったのは日本の桑木志帆だった。昨年の山下美夢有に続く、日本人選手による大会連覇。歴史的快挙に日本中が沸き立っている。過酷なリンクスコースで、彼女はなぜ名だたる世界トップ選手たちを抑えて優勝できたのか。詳細なスタッツ(データ)と、優勝後の彼女の言葉から、その勝因と底知れぬポテンシャルを紐解いていきたい。

勝因1:リンクスを無力化する「パーオン率80.6%」の衝撃

桑木が優勝できた最大の要因は、疑う余地なく「ショットの圧倒的な精度」にある。4日間の詳細データを見ると、その凄まじさが浮き彫りになる。

大会を通じた彼女のパーオン率(GIR)は、驚異の「80.6%(58/72)」。これはフィールド全体のトップとなる成績だ。海風が吹き荒れ、硬い地面と深いポットバンカーが口を開けるリンクスにおいて、第2ラウンドで「88.9%」、最終日で「83.3%」と正確にグリーンを捉え続けたことは、まさに驚異的と言うほかはない。

本人は優勝会見で「私は決して飛ばし屋ではありませんが、正確性で勝負できると信じていますし、そこをとても誇りに思っています」と胸を張った。また、数少ないバンカーに入った際も、サンドセーブ率80.0%(4/5)と完璧に近いリカバリーを見せている。自らの持ち味である「正確性」を極限まで磨き上げ、リンクスの罠をことごとく無力化したことが、メジャー制覇の強固な土台となった。

さらにデータは、彼女の「勝負強さ」も証明している。第1〜第2ラウンドの平均飛距離は244ヤード台だったが、優勝争いのプレッシャーがかかる最終日、彼女の平均飛距離は「277.5ヤード」へと跳ね上がっている。サンデーバックナインに向け、意図的にギアを上げてアグレッシブに攻める戦略が見事にハマっていたのだ。

勝因2:昨年の挫折と「姉」渋野日向子のエール

驚異的なスタッツを叩き出した背景には、1年前の苦い経験があった。昨年の同大会、初日を上位で終えながらも、2日目の強風に翻弄され「81」を叩いて予選落ちを喫した。

「あの時、強風の中でいかに自分をマネジメントするかを学んだことが、今日のプレー、そして今大会全体に本当に役立ちました」

失敗を単なる絶望で終わらせず、1年越しに見事な糧として昇華させたのだ。さらに、異国の地で重圧と戦う彼女を精神的に支えていたのが、同郷(岡山県)の先輩である渋野日向子の存在だった。

「高校時代からずっとサポートしてくれていて、海外の試合で一緒になるといつも声をかけてくれます。今日もスタート前に『頑張ってね』とメッセージをくれました。まるで本当のお姉ちゃんのような存在で、感謝してもしきれません」

先輩メジャー覇者からの温かいエールが、過酷なリンクスを歩く彼女の背中を力強く押していた。

勝因3:震える手と天真爛漫な心。重圧を跳ね返す“人間力”

そして何より、彼女をメジャー女王へと押し上げたのは、大舞台の重圧に飲まれない“ブレない自分らしさ”と豊かな人間力だ。

正規の18番ホール。ヘンセレイトがプレーオフに持ち込む12メートルの奇跡的なパットを沈めた瞬間を、桑木はスコア提出所で見ていた。「彼女がパットを打つ時、私の手は震えていました」と素直に恐怖を明かす。しかし、すぐさま「でも、18番を終えた時からプレーオフになるかもしれないと覚悟はできていました」と腹を括る強心臓ぶりを見せた。プレーオフでも「一打一打に集中し、できる限り楽しむようにした」と、見事に笑顔でプレッシャーを跳ね返してみせたのだ。

【動画】桑木志帆が「手が震えていた」と話すE・ヘンセレイトの12mのバーディパットは07:43~【R&A公式YouTube】

画像: Shiho Kuwaki WINS the AIG Women's Open | FINAL ROUND Highlights | Royal Lytham & St Annes youtu.be

Shiho Kuwaki WINS the AIG Women's Open | FINAL ROUND Highlights | Royal Lytham & St Annes

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彼女のトレードマークである黄色いボールや、左右非対称のネイル、そして華やかなウェア。それらもすべて「自信を持ち、ハッピーな気分でいるため」の彼女流のセルフプロデュースだ。

海外メディアから「2024年に横浜市から贈られた125kgのお米はまだ残っていますか?」と聞かれた際には、「とても嬉しかったですし、もう全部おいしく食べ切ってしまいました(笑)」と屈屈なく答え、会見場を和やかな空気で包み込んだ。

一方で、世界中が注目する優勝スピーチの最後には、自ら「最近、熊本で地震がありました。被災された方々の1日も早い復興と無事を祈っています」と語りかけ、心からの気遣いを見せた。チャーミングなお茶目さと、他者を思いやる誠実さ。この温かい人間力こそが、ゴルフの女神を微笑ませた最大の要因と言えるだろう。

127パットでも勝てたという「末恐ろしい伸びしろ」

画像: 優勝を決めた後、ギャラリーの歓声に応える桑木志帆

優勝を決めた後、ギャラリーの歓声に応える桑木志帆

素晴らしいプレーで頂点に立った桑木だが、実は「もっと楽に圧勝できていた」可能性がデータに表れている。

彼女の4日間の総パット数は「127(1ラウンド平均約31.75)」。3パットも5回記録しており、優勝者としてはやや多い数字だ。もしグリーン上のタッチや距離感がもう少し噛み合っていれば、プレーオフにもつれ込むことなく、後続を大きく突き放して独走状態で勝利していたはずなのだ。

裏を返せば、それは彼女の「末恐ろしい伸びしろ」でもある。パッティングが完璧でなくとも、圧倒的なショット力だけで世界最高峰のメジャーを制してしまったからだ。

さらに、今回の優勝は米LPGAツアーのシード権を持たない「非メンバー」によるメジャー制覇という、歴史的な大快挙でもある。非メンバーによるメジャー制覇は2021年の「全米女子オープン」(笹生優花)以来であり、「AIG女子オープン」においては2020年のソフィア・ポポフ以来という実に異例の偉業だ。

「(今年の冬に予定していた)Qスクール(予選会)の心配をしなくて済むようになりました」と茶目っ気たっぷりに笑った新女王。圧倒的なショット精度とブレない自分らしさを持つ彼女は、来年からの米女子ツアー参戦に向けて大きく羽ばたく。本格参戦までにパッティングの安定感をさらに高められれば、世界の大舞台で“シホ・クワキ旋風”を巻き起こすのも決して夢ではないはずだ。

写真/R&A提供


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