驚異のバーディラッシュを生んだ「8年変えないアイアン」と「長尺パター」
この日、同組の比嘉一貴に2度追いつかれる緊迫した展開となったが、平本の心に焦りはなかった。「そういう展開も絶対あると思っていた。自分の目標スコアである8アンダーに近づけるように頑張った」と冷静に自身のプレーに集中した。
今大会のコースについて平本は「僕は大好きですね。ドライバーをしっかり打っていけばチャンスになるし、打たなくてもセカンドでしっかり狙えればチャンスになる戦略的なコース」と絶賛。「自分はフェードヒッターなので、かなり有利というか、回りやすかった」と、自身のプレースタイルとコースマネジメントが見事に噛み合っていた。
前半の3番(パー5)、5番(パー5)、6番(パー4)と順調にバーディを重ね、実測153ヤードの設定となった7番(パー3)では、ピッチングウェッジでピン左奥4mにつけて見事バーディを奪取。続く8番(パー4)でも残り54ヤードを58度で打ってピン奥2mのバーディパットを奪い、持ち味であるアイアンショットのキレを見せつけた。

前半では4連続バーディを決めた平本(撮影/姉崎正)
彼の最大の武器は、なんと「8年ほど変えていない」というこだわりのアイアンだ。「ナイスショットよりも、思ったミスが出るかどうかで判断している。開いたら右に行ってほしいし、つかまったら左に行ってほしい」という相棒が、このビッグスコアを支えた。また、アプローチの苦手意識をカバーするために昨年から投入した長尺パターも見事に噛み合い、グリーン上でも自信を持ってストロークを続けていた。
ジャンボ尾崎のAI音声と、陰で支え続けた新妻の涙
今大会の1番ティーでは、ジャンボ尾崎の「優勝は掴むものだ」というAI音声が流れた。「3年前(2023年)の日本オープンで単独首位に立った時は『トップ10に入れればいい』という考えだった。でも今日はスタートの時に『確かに優勝はするものだな』と思いながら臨めた」と、レジェンドの言葉に背中を強く押されたことを明かした。
そして記念すべき初優勝の裏には、昨年大晦日に結婚したばかりの妻・未樹さんの献身的な支えがあった。この日は急遽仕事を休み、朝5時に神奈川を出発してコースへ駆けつけたという未樹さん。自身はゴルフのことはよく分からないというが、「できることは何でもやりたい」と野菜嫌いの平本のために料理の際に細かく刻んで混ぜるなど、生活面で手厚いサポートを続けてきた。

平本世中の妻、未樹さん(左)から祝福を受ける
とはいえ、初優勝への道のりは決して平坦ではなかった。最終18番(パー5)では、2番アイアンでのティーショットが右ラフへ。セカンドを6番アイアンでレイアップし、3打目を手前6mにつける。最後はスライスラインを沈めて自らの力で勝負を決めた。
「上がりの3ホールは優勝を意識して緊張したけれど、その中でもいいゴルフができた。ただ、最後のパットは結構震えましたね」と極限のプレッシャーの中でウィニングパットを見事に沈めた瞬間、普段から「優勝しても俺は泣かない」と語っていた平本が思わず涙ぐんだ。「一番最初に家族の顔が浮かんだんで、ちょっとグッときちゃいましたね」と家族への想いを語った平本。その姿を見た美樹さんも「初めて涙を見ました。私自身も泣きすぎちゃって、顔が見れなかったです」とお互いに感涙した。

18番(パー5)にて見事ウイニングパットを沈めた(撮影/姉崎正)
「30代中盤までは勝てないと思っていた」想定外の速さで訪れた歓喜
「セカンドショットでピンをバンバン攻めちゃう欲張りが落ち着く、30代中盤までは優勝できないと思っていた」という平本。自身を「欲張り」と評し、マネジメントよりもアグレッシブにピンを狙いすぎてしまうプレースタイルが落ち着くまでは、初優勝までに時間がかかると自己分析していた。しかし、今大会ではその「攻めの姿勢」と冷静なマネジメントが見事に噛み合い、予想よりも格段に早いタイミングで歓喜の瞬間を手繰り寄せた。
今年の最大の目標に掲げていたという「(最終戦の)日本シリーズJTカップ」への出場権も、今回の初Vで確定させた。「限られた人しか出られない舞台なので、思い切り楽しんでいい結果で上がれたら」と喜びを口にしつつ、「もう1回、家に帰って目標を立て直します」と浮かれることなく次なるステップを見据えている。
さらに、今回の優勝で2年シードを獲得したことで、海外ツアーへの挑戦も現実味を帯びてきた。「プロゴルファーである以上、マスターズなどの大きな舞台に出られたら最高じゃないですか。心の底にはその思いがあります」と、静かに闘志を燃やす。

平野世中(撮影/姉崎正)
「世の中の中心で活躍できるように」という両親の願いが込められた「世中(せじゅん)」という名前。「すごくいい名前をもらったなと思っています」と改めて感謝の想いを口にした。驚異のツアータイ記録で初優勝を飾った平本世中が、家族の温かいサポートと揺るぎない自信を胸に、世界の舞台へと力強く羽ばたいていく。

