
アップルビーGC
きっかけは20年前、豪州ビクトリアで知り合ったコース設計・修復で数々の実績を残しているマイク・クレイトンの一言。「世界で最もクレイジーなコースを発見した」と。以来、いつかきっと……と思っていた。
その世界で最もクレイジー(the nuttiest of nutty)なコースとはアップルビーGCでイングランド北西部に位置する。エジンバラ空港から200km、クルマで約3時間。 同GCは1903年開場。設計したのはウィリー・ファーニー。ロイヤルトゥルーンGC、セントアンドリュース・オールドCの改修も手がけている名匠だ。
後に現在に至るまで「手つかずのグレンイーグルス(※)」として高く評価されていたが、唯一扱いに厳重な注意が必要なのは羊や馬のふん(ここではルースインペディメント)とユーモアにも富んでいる。コースが共有地になっているためで羊が芝刈り機の役目を果たしているのだ。
※グレンイーグルスとはスコットランドの最高級リゾート
ルーティングが絶妙だ。各ホールに特徴があり、その変化にプレーヤーは新鮮な驚きを隠し得ない。まずオープニングホールはだんだん畑を駆け上がるような強烈な打ち上げ。2ホール目ではブラインドショットが待ち受け、両脇にはヒース、ゴースがごまんと盛り上がっている。まさに荒波の中の航海を思わせるシチュエーションだ。さらに驚かされたのは4番パー3。20mほどの下り坂で風とのバランスを取るには重力に関する物理的法則が必要になる。 5番は谷底から谷越えの打ち上げ。向かい風の中、200ヤード打てと……。6番は豪快な打ち下ろし、7番は打ち上げと続き、強靭な足腰が求められる。このようにストーリー性のあるホールが次々と続き、リンクスの真骨頂を表現するホールはあと1つ。
15番のホールネームはBell Hole。ホールの右側のそばのティーから、辛うじてピンの先端・が見えるだけの打ち上げブラインド。右側には岩だらけの入江とゴースが生い茂る峡谷。そして小高い丘を越えると、急な斜面に囲まれた小さなグリーンが見えてくる。ブラッケンバー台地に吹き抜ける絶え間ない風。傍らには羊がグリーンキーピングの草を食はむ牧歌的情景。時をさかのぼったような悠久を感じる瞬間だった。
筆者の愛する「ゴルフの原点」がそこにはあった。
武居振一:1952年生。英国300コース(リンクス100)行脚。リンクス研究家。R&A会員。JGAゴルフミュージアム参与
※週刊ゴルフダイジェスト2026年9月8日号「バック9」より
