第91回日本オープンゴルフ選手権、大会2日目。サスペンデッドにより進行が持ち越されるリーダーボードに見覚えのない名前が飛び込んできた。この日のベストスコアタイとなる「64」を叩き出し、首位と2打差の3位タイの欄にある「カズマ・コボリ」だ。 両親の国籍は日本(父・亮三さんは神奈川県、母・純子さんは静岡県生まれ)だが、彼自身の国籍はニュージーランド(NZ)である。カズマは軽井沢の病院で生まれ、5歳の時にモーターサイクル関連の仕事をする父と共に家族全員でNZへ移住した。カズマもモーターサイクルを楽しんでいたが、「ゴルフされる方にしたらNZはゴルフ天国」と母が語る環境でクラブを握り、やがてNZのナショナルチーム入りを果たす。しかし、日本は二重国籍を認めていない。欧州女子ツアーで戦う姉・モモカと同様に、ナショナルチームの舞台に立つため、彼はNZ国籍を選択したのだ。
画像: 透き通った目と穏やかな表情が魅力のカズマ・コボリ。以前取材したときより日本語が上達していたのも印象的だった

透き通った目と穏やかな表情が魅力のカズマ・コボリ。以前取材したときより日本語が上達していたのも印象的だった

現在の主戦場はDPワールドツアー(欧州)である。「食事も美味しい日本が大好き」と話す彼が、なぜ日本のJGTOではなく欧州を選んだのか。そこには運命のいたずらのようなドラマがある。JGTOには「世界アマランク上位の資格でサードQT免除」という規定があり、彼もその資格での日本ツアー参戦を狙っていた。しかし、杉浦悠太がダンロップフェニックスで優勝したことでアマチュアランキングを抜かれ、道が絶たれてしまう。そこで目線を変え、PGAツアー・オブ・オーストラレイジアでキャリアをスタートする決意したという。

そんな彼が今、なぜ日本オープンの舞台に立っているのか。今季の欧州シード権が確定したことで「ルーツである日本のナショナルオープンに出場したい」という情熱が湧き上がった。ツアー開催期間はロンドンを拠点としており、日本でのビザ取得は困難を極めるはずだった。欧州ツアーは毎週各地で開催されており、自ら大使館に何日も通えば試合をスキップするリスクがあった。しかし、JGA(日本ゴルフ協会)が全面協力し、すべての書類を用意してくれたおかげで、無事に日本の土を踏むことができたのである。

日本オープンへの強い思いを胸に乗り込んできたものの、事前評価は決して高くはなかった。大会前の練習ラウンドでは、アマチュア時代からの友人である米澤蓮と同組で回ったが、自身の状態は絶不調だった。彼自身が「予選通るのを目標にしていた」と語る通り、実は母・純子さんも予選落ちを覚悟しており、「宿泊場所を金曜までしか押さえていなかった」という驚きの事実がある。

画像: ラフよりもフェアウェイの芝に違和感があると話すカズマ。2日目はしっかりアジャストして「64」を叩き出した

ラフよりもフェアウェイの芝に違和感があると話すカズマ。2日目はしっかりアジャストして「64」を叩き出した

不調の最大の原因は、欧州とは異なる日本の芝にあった。「根っこが結構強い感じの芝じゃないですか。ヨーロッパで上手くいくショットがあんまり上手くいかなかった」。欧州のように上からクラブを潰して入れると、日本の芝ではクラブが刺さってしまうのだ。

だが、ここからがプロフェッショナルの真骨頂だった。彼は初日のラウンドを終えた後、「もうちょい芝をこする感じで打たないとダメだ」と、たった一夜で「払い打ち」へとアプローチとアイアンの技術を修正してみせた。フェアウェイからのショットが刺さる問題を見事にクリアしたこの驚異的なアジャスト力と「DPワールドツアーに比べてグリーンが綺麗なので、打ち出し方向さえ間違わなければ大きなミスにならない」というグリーン上の技術が、2日目の快進撃を生む。

画像: ベテランカメラマンが「パッティングが凄くうまい」と舌を巻くカズマはスコッティキャメロンのブレードタイプのパターを愛用

ベテランカメラマンが「パッティングが凄くうまい」と舌を巻くカズマはスコッティキャメロンのブレードタイプのパターを愛用

11番で6メートル、12番で2.5メートル、16番で2メートル強、17番で3.5メートル。前半に4つのバーディを奪い、見事なボギーフリーのラウンドを達成したのである。「芝の打ち方がだいぶわかってきた」と笑う適応力は、欧州のみならず、南アフリカ、オーストラリアと世界を股にかけるDPワールドツアーで培った実力だろう。

彼のゴルフを形作る「チーム」や「メンタル」もまた、型破りである。得意クラブは「8番アイアン」。NZのホーム練習場はフォローの風が強すぎて長いクラブが使えなかったため、ひたすら短いアイアンを磨いた。また、父とともに大学2年生まで「ホームコースはふらっと行って好きなようにラウンドできました。だから『3ホールでバーディを取らないと帰れない、ボギーを叩いたらリセット』というルールでラウンドしていました」と実践力で腕を磨いてきた。

画像: 欧州女子ツアーに参戦中の姉・モモカも応援に駆け付けた。「ゴルフが簡単に見えました。弟の武器は、フェアウェイを外さないこととパッティング。これが安定してかみ合えば今回のようにいいスコアが出るんですよ。見ていて楽しかった」(撮影/山口哲平)

欧州女子ツアーに参戦中の姉・モモカも応援に駆け付けた。「ゴルフが簡単に見えました。弟の武器は、フェアウェイを外さないこととパッティング。これが安定してかみ合えば今回のようにいいスコアが出るんですよ。見ていて楽しかった」(撮影/山口哲平)

サポート体制も面白い。コーチはずっと「趣味でゴルフをしていた」という父・亮三さんだ。技術よりもメンタル面を主軸に指導し、NZとロンドンと物理的距離はあるが、今でもスウィング動画を送ってチェックを受けているという。さらに今大会のキャディは、父のモーターサイクル仲間でありツアーキャディ初体験の「けんちゃん」こと加藤さん(HC11)が務めている。

カズマを支えているのは、こうした手作り感あふれるチームの温かさと、大舞台でも萎縮しない強靭なメンタルだ。友人の中島啓太らから聞いた日本オープンの「ハードなセッティング」も、「すごく勉強になる」と楽しんでいる。

日本の地を踏むのは約1年ぶり。「お米が好きだから『自分はやっぱり日本人だな』と思うときはある」と笑う。「完璧なときの中島啓太のスウィングはやばい。比嘉一貴さんや今日一緒にラウンドした砂川公佑さんのスウィングも好きですね。体格に合ったスウィングで綺麗」と話す24歳。次週は韓国での試合が控えており、「DPワールドツアーは今週インドで開催しているので、そこから韓国へ行くより、日本から韓国のほうが移動が楽」という合理的な理由も併せ持つグローバルプロは、金曜でキャンセルするはずだった宿を延長し、週末のリーダーボードの主役になろうとしている。タラオCCに吹き荒れるであろうカズマ・コボリ旋風から、もう目が離せない。(文/山口哲平)

写真/姉崎正


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