ホールインワンの瞬間に至るまでの前半戦、山下の状態は決して良いとはいいがたい状態だった。
「ショットがボロボロで、今日も朝からもう、ちょっとあり得へんぐらい曲がってたんで」
本人がそう語気を強めるほど、手応えは皆無だった。帯同した筆者の目にも、ショットのたびにピタッとフィニッシュが取れず、「あ〜」と心の声が漏れ出ている苦闘の姿が映っていた。
それでも、スコアを崩すまいと「とりあえずマネジメントを意識して」必死に耐え続けた。3番と6番でボギーを叩きながらも、得意のパッティングでしのぎ、8番終了時点で2オーバー。満身創痍の状態で迎えたのが、9番ホールだった。
左からの風に対し、山下は8番アイアンを手にした。
「まっすぐちょっと低めで風に当てようと思って打ったんですけど」
しかし、放たれた瞬間の感触は決して良いものではなかった。
「ちょっと当たり薄いなと思って」

ティーショット後に右手を離した山下勝将
フィニッシュでは片手がグリップから離れ、気持ちよく振り抜けた一打とは程遠かった。
視線は飛んでいくボールを追う。手前のバンカーを越えるかギリギリの軌道に対し、山下は思わず「ゴーゴー」と声をかけた。なんとかバンカーを越えたボールはグリーンをコロコロと転がり……そして、視界からふっと消えた。
「あ、もう入ったんちゃう?」
不完全な手応えから生まれた、レギュラーツアーでは自身2度目となる劇的なホールインワンの瞬間だった。

驚きの表情でキャディにカップインを確認する山下
カップインを確認すると、山下は驚いた表情を見せ、クラブを渡そうとキャディに近づくとハイタッチを交わした。ティーイングエリアを下りると、同組の岡田圭太や長﨑煌心からの祝福に安堵の笑顔を見せる。グリーンへと向かう道中、観客からは「いいもん見せてもらった」という声が飛び、カップからボールを拾い上げると「おめでとう」の歓声が響き渡った。
「ずっと今日調子悪かったんで、流れ変えてくれるような、いいチャンスかな、いいもの来てくれたなと思って。嬉しかったです」

ティーイングエリアでキャディとハイタッチする山下
ラウンド後、タラオカントリークラブから贈られた賞金20万円の使い道について問われると、「美味しいもの食べに行きます」と笑って素顔を見せた。
「当たりが薄い」片手フィニッシュのショットが、最高の結果をもたらす。朝からスウィングがボロボロでも、諦めずに泥臭く耐え抜けば、ゴルフの神様は時にこんなボーナスをくれる。不調と奇跡のパラドックスが織りなす、あまりにもドラマチックな一打だった。(文・写真/山口哲平)

