永久シードまで残り7勝
千葉県を2度襲った豪雨の影響で、会場となった東急セブンハンドレッドクラブの周辺道路はいまだ通行止めになっているところがありました。コース内もフェアウェイは冠水したものの、懸命な復旧整備により元の姿に戻し、例年通り12フィート近くの速さがある仕上がったグリーンが選手たちを待ち受けていました。大会期間中にショットインイーグルが9つ出たのも、速さと硬さ、素直な転がりがあったからに違いありません。
パッティングはライン読みが8割と言われますが、それはプロの正確なストロークがあってこそ。鈴木選手のパターの芯を食って打ち出されたボールはスーッと転がりカップへと消え、サンデーバック9に3つのバーディを奪い混戦を抜け出しました。コンビを組んだ河戸映キャディは好調だったパッティングの理由を練習グリーンでの過ごし方に見ていました。
「練習からラインを毎回読んでカップインさせることを徹底していました。これまで見たなかでは、そういう選手はなかなかいませんでした」(河戸映キャディ)

「富士通レディース」で通算23勝目を飾った鈴木愛
通常、練習グリーンではその週のグリーンに対してタッチを合わせる練習が多くなり、ショートパット以外ではカップインさせる練習に時間を割くことは少ないものです。この話を聞いて23年の「ZOZO チャンピオンシップ」に出場したコリン・モリカワ選手の姿を思い出します。練習グリーンで連日3時間くらいキャディとラインを読み、本番さながらに様々なラインからカップインさせる練習をしていました。結果はご存知の通り優勝。このエピソードからその週のグリーンを把握することの重要さがわかります。
元世界ランク1位のコ・ジンヨンのスウィングをヒントにショットが復調
今季の鈴木選手は開幕戦から2戦連続で5位タイに入り、その後も2位、4位タイと好成績を出していました。ですが、中盤戦の「ニトリレディス」からは3戦連続で予選落ちを経験するなど、苦しい期間を乗り越えての勝利でした。そこで参考にしたのはSNSで見た元世界ランキング1位のコ・ジンヨン選手のスウィングだと言います。私も何度かこの目で見たことがありますが、フィニッシュがいつもピタッと決まる、切れ味が鋭いアイアンショットが目に焼き付いています。
鈴木選手はドローヒッターのコ・ジンヨン選手のクラブ軌道を「ドローなのにストレートに入れて来る」と表現していました。フェースの芯でヒットしたとして、ターゲットに対してインパクトゾーンでヘッドがインサイドアウト軌道になればドローが打てますが、その角度はインからアウトに3度前後が理想的とされています。
0度のターゲットラインに対して、5度や8度のインアウト軌道になるとボールのスピン軸の傾きが大きくなり、曲がりの幅が大きくなります。インサイドアウト3度とは、ボールの後方50センチでクラブは2.5センチほどインから入る軌道になりますので、ほとんどストレートに振っているように見えてもおかしくありません。鈴木選手は左へのミスが多かったと話していますので、恐らくドローを打つのにインサイドアウト軌道が強すぎたのではないかと推察します。

ストレートに近い軌道でドローボールを打つコ・ジンヨン(「シェブロン選手権2024 」撮影/岩本芳弘)
実際に最終日のスウィングを見てみましょう。トップから腰を落とすように地面を踏み込んで切り返し、手元が降りて来てから回転していきます。

トップから腰を落とすように前傾姿勢をキープして切り返す
左腕が左胸に重なり左腕とクラブが一本になるようにインパクトしています。フォローでも左腕は左胸についたままなので極端なインサイドアウト軌道にはならず、体の回転をボールに伝えるようにわずかにインサイドアウト軌道で抜けていることが見て取れます。

左腕が胸から離れないことでインパクトゾーンは緩やかなインサイドアウト軌道になる
河戸キャディは「愛ちゃんは、『最終日のピン位置は難しく、上位もスコアをそこまで伸ばせないだろう』と、試合の展開をよく予想できていました。昔からですが、優勝スコアの読みとか、試合の流れや展開を見る力が高い。すごく的を射ているんです」とも話します。
前週の「スタンレーレディスホンダ」で予選落ちした翌週に優勝してしまうという鈴木選手の底力を見せつけた23勝目となりました。8人目の永久シード選手までは残り7勝。2019年には年間7勝を挙げている彼女ですから、達成する瞬間はそう遠くはない気がします。
写真/岡沢裕行
