滋賀県初のゴルフ場として1959年に開場した琵琶湖カントリー倶楽部は、国内でも数少ない「3大オープン(日本オープン、日本女子オープン、日本シニアオープン)」をすべて開催した歴史を誇る。その歴史に新たな1ページを刻むべく、同倶楽部は世界的な設計会社であるグレッグ・ノーマン・ゴルフコース・デザイン(GNGCD)による大規模なコース改修(琵琶湖・三上コース)を実施し、来る11月3日に待望のリニューアルオープンを迎える。当初の目的は老朽化施設の更新と現代ゴルフに対応する戦略性向上だったが、実はプロジェクトの途中で起きたある大会での「想定外の事態」が、ノーマンの闘争心に火をつけ、コースの方向性を大きく変えることとなった。

19アンダーの屈辱と、ノーマンの執念

画像: 19アンダーという歴代最多アンダー記録で日本オープンを優勝したショーン・ノリス(写真/姉崎正)

19アンダーという歴代最多アンダー記録で日本オープンを優勝したショーン・ノリス(写真/姉崎正)

転機となったのは、第1期工事を終えて迎えた2021年の日本オープンゴルフ選手権だった。

ナショナルオープンといえば、硬く速いグリーンと深く長いラフが選手を苦しめるのが定石である。しかしこの年、連日の夜間降雨によってグリーンが柔らかくなったことに加え、ラフの刈り止め時期が早かったため、本来のタフなラフセッティングを作り出すことができなかった。ノーマンが再設計したグリーンのアンジュレーションやスピードのポテンシャルを発揮しきれず、結果として日本オープン歴代最多アンダーとなる「19アンダー」というビッグスコアでの優勝を許してしまう。

プロの猛攻を防ぎきれなかったこの現実に、倶楽部関係者だけでなく設計者のグレッグ・ノーマン自身も強い悔しさを抱いた。当初は2022年の第2期工事着工を目指していたものの、コロナ禍(パンデミック)による渡航制限で2023年着工へ遅延を余儀なくされる中、ノーマンの「なんとかもう一度コースを再度強化したい」という強い執念が工事の実現を後押しした。

GNGCDアドバイザーの柳沢博見氏は当時をこう振り返る。

「これが倶楽部としても非常に心残りであり、グレッグ・ノーマン自身も非常に悔しい思いをいたしました。『なんとかもう一度、第2期工事としてコースを再度強化したい』という強い意欲が、第2期工事へと結実したのです」

6番ホール「ドライクリーク」と戦略性の極み

画像: 2021年の日本OPをきっかけに追加改修された琵琶湖カントリー倶楽部・琵琶湖コース6番ホールの図面(琵琶湖CC提供)

2021年の日本OPをきっかけに追加改修された琵琶湖カントリー倶楽部・琵琶湖コース6番ホールの図面(琵琶湖CC提供)

第2期工事では、2021年日本オープンでのプロの攻め方を徹底分析し、実戦のフィードバックを設計に落とし込んだ。その象徴が琵琶湖コースの6番ホール(パー4)である。

2021年大会、旧設計(左サイドに2つのバンカーを配置)の6番では、多くのプロが右サイドの池を警戒してドライバーを持たず、ユーティリティなどで安全に刻む戦略をとっていた。これを目にしたノーマン陣営はバンカーを撤去し、フェアウェイを斜めに横切る「ドライクリーク」を新設。さらに左へ逃げたショットが右にキックしてハザードへと転がり落ちる傾斜(キックプレート)を仕組むことで、プロの逃げ道を塞いだ。

改修後、若手プロらが試走した際には、リスクを嫌って刻むのではなく「思い切ってドライバーで左の安全圏へ攻める」という、設計意図通りの挑戦的プレーが見られた。

世界基準のスケールとノーマンの設計哲学

今回の全面改修では、コース全体のスケール感と戦略性も飛躍的に高められている。

画像: 三上コース9番の3段グリーンは880㎡あるため、合計10カ所以上のピンポジションが選べる

三上コース9番の3段グリーンは880㎡あるため、合計10カ所以上のピンポジションが選べる

グリーンは日本特有の「お椀型」から脱却し、平均550〜600㎡(三上コース9番は880㎡の巨大な3段グリーン)の大型グリーンへ刷新。通常用6箇所・トーナメント用5箇所の計10箇所以上のピンポジションが設定可能となった。また、通常の改修ではワングリーン化が主流だが、あえてツーグリーンを維持することで「18ホールでありながら36ホール分の異なるプレー体験を提供する」という工夫も凝らされている。

ティーショットは、トーナメントティーから280ヤード地点(短いパー4では250ヤード地点)にランディングゾーンを設定してハザードを配置。一方で、視界の開けた広いフェアウェイには、元世界ランキング1位(通算331週)のノーマンによる「ティーショットは迷いなく思い切って振ってこい」という豪快なゴルフ哲学が息づいている。バンカー数も琵琶湖コースで10〜12個増設され、三上コースではハート型、桜の花びら型、タコ型といったユニークなシェイプの遊び心がちりばめられた。

画像: 樹木を伐採して景観美を良くした琵琶湖コース8番ホール、ティーイングエリアからの眺望

樹木を伐採して景観美を良くした琵琶湖コース8番ホール、ティーイングエリアからの眺望

さらに、歴史ある林間コースゆえに茂りすぎていた樹木を整え、琵琶湖コース8番では奥のメタセコイア約20本を伐採したことで、後方に琵琶湖の雄大な眺望が開ける劇的な景観美も実現している。

「すべてのゴルフコースは指紋のようなもので、ひとつとして同じものは存在しない。土地固有の地形や歴史を活かす『最小限の改変』こそが私の設計理念である」

ノーマン氏が語るこの理念の通り、彼が直接現地でスケッチを描いて設計に携わった「日本初のグレッグ・ノーマン・シグネチャーコース」として、琵琶湖・三上コース(18ホール)は11月3日に待望のリニューアルグランドオープンを迎える。

「19アンダーの屈辱」を糧に、世界的プレーヤーと名倶楽部が意地をかけて創り上げたチャンピオンコース。それは幾多の名勝負を刻んできた琵琶湖カントリー倶楽部が、これからも世界基準であり続けるという強烈な意思表示であり、ゴルフファンへの新たな招待状なのだ。(文/山口哲平)

写真/岡沢裕行


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