頭を痛めていることはもうひとつあった。グリーンのアンジュレーションである。
ホールによっては、そしてピンの位置によっては「スリーパット覚悟」をせざるを得ない。”触っただけ”でボールはいつまでも転がりつづける。
いや、最初の”ひと転がり”がスロープに乗って加速するので、途中からスピードがついてしまう。速いベントグリーンに乗せさえすれば、”御の字”というわけにはいかない。パットのやりやすいエリアをきちっと把握し、そこへ乗せる。それだけショットの精度を求められるわけだが”初ラウンド”では、そのエリアがつかみかねる。
アベレージゴルファーには乗せやすくなったけど、上級者には乗せずらくなった、と言えるでしょうね。彼はそんなふうに言っていた。
中部の、この日唯一のバーディは18番だった。ピンはフロントエッジから7~8メートルの所に立っていたが、第二打をグリーン手前の”おでこ”にワンクッションさせ、見事に寄せた。18ホール目でやっと、本人の意図とショットをグリーンが受け入れたのである。
起こったことをやわらかく遣り過ごすことを身上にしている彼にしても、この”初ラウンド”ではよほど頭を痛めたようである。「ひとつ、本日のご感想を・・・・」と水を向けても「うーん、感想ですか」言葉を呑むばかりで、ついぞ声にはならなかった。
頭の中で、”改造前”と”改造後”の違いが交錯し合って、直ぐには”感想”浮かばなかったのであろう。「でも、アリソンが見たらどう思うでしょうかね」
もっともアリソンは五十年前の完成時もプレーしていないはずだから、彼とても感想は言えないかもしれない。「広野」が依然としてわが国の冠たるコースでありつづけるためには、今度の改造によって第二、第三の中部銀次郎を「ベントグリーン」から輩出させることであろう。
「名コースが名ゴルファーを育てる」と言われるのだから。そして近年は、「グリーンが名手を育てる」傾向にあるのだから。
(1990年3月チョイスVol.53)
その①の記事はこちら↓↓
アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」①
その②の記事はこちら↓↓
名手中部の技術を“発酵”させた名コース アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」②
その③の記事はこちら↓↓
ゴルフは起こったことに鋭敏に反応せず……アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」③
その④の記事はこちら↓↓
視覚に訴える緊張感の緩和は「焦点」を狂わせる。アマ・ゴルフの世界 中部銀次郎「広野を往く」④