100ヤード以内は
天才的な才能を発揮する
「いまこそ僕たちがメジャーに勝ってもいい年齢に達した。機は熟しているんだ」
フィル・ミケルソンが、そう熱く語ったのは、1994年のマスターズのときだった。
当時24歳という年齢が、メジャー優勝を狙う年齢かどうか、僕は一瞬戸惑ったけれど、彼はそのときすでに米ツアー4勝を果たしていた。初優勝は、アリゾナ州立大在学中にアマチュアとして出場したノーザン・テレコム・オープンだった。
彼のスウィングは左打ちである。左利きだったわけではない。幼いころ父親のスウィングを正面から見て、そのまま真似をしていたためなのだ。
ジュニア時代からミケルソンのコーチをしているディーン・ラインマスは、メジャーに勝つ選手とそうでない選手の違いは、たったひとつだという。
「100ヤード以内からのショットの違いだ。彼らは100ヤード以内なら、ほとんどは1ピン以内に寄せて、カップをかすめるだけの技術を持ち合わせている。ミケルソンも、100ヤード以内の距離感や技術は天才的にうまい。その意味では十分にメジャー優勝のチャンスはある」と語っていた。
事実、ミケルソンは天才的なショートゲームの感性があり、それがジュニア時代に磨かれた。しかし、彼がメジャーに初優勝したのは、10年後の2004年マスターズだった。天才ミケルソンの弱点は、肝心な場面で70センチ以下のパットを外す脆さがあったからだ。
その落胆する表情がまた、女性ファンにとっては魅力的だと言われ、皮肉にも人気の秘密でもあった。(文・三田村昌鳳)