先輩から後輩へ
「経験」の伝承
米ツアーの選手の間で、ちょっとした“メモ”をロッカーに残したりするやりとりが話題にのぼっている。その話題がはじめて表面に出たのは、1994年のマスターズで、セベ・バレステロスがスペインの後輩オラサバル宛に、オーガスタのロッカーにメモを挟んでおいたことだった。
それは、マスターズの最終日の朝のことで、優勝争いをするオラサバルよりもかなり早くスタートすることになってしてしまったバレステロスは、そこで、メジャー、マスターズではじめての優勝争い、勝つチャンスが十分ある後輩のオラサバルに“メモ”を残したのだった。
「詳しい内容は言えないけれど、セベからのあの“メモ”で僕は励まされたんだ」と彼は後に語っていた。自分の後継者として認めているオラサバルの心の支えになったのだろう。
そのメモが功を奏したのか、オラサバルは、見事にマスターズ初優勝を遂げた。その後、1999年にもグレッグ・ノーマンとのデッドヒートを制して優勝している。
セベがマスターズで初めて勝ったのは1980年だった。最終日の17番ホールで第1打を左に引っかけて、ボールは7番グリーン手前のラフ。そこからなんと林を越えて見事にグリーンオンしてパーで収め、グリーンジャケットを手繰り寄せた。
テレビで見ていたニクラスは、
「なんてことだ。私のゴルフの範疇を超えている。信じられない」と呟いた。そのニクラスも、かつてボビー・ジョーンズに同じことを言われていた。
規格外のポテンシャルを持つ選手が、その時代を築き、歴史に名を刻むのだろう。(文・三田村昌鳳)