豪快なスウィングと飛距離で90~2000年代に大活躍した「福嶋晃子」プロ。4月のサイバーエージェントでは妹・福嶋浩子の優勝を姉妹で喜ん姿は記憶に新しい。
その二人が育った福嶋家ではどんな幼少期を過ごしたのでしょうか。
ほめまくる。これが天真爛漫な
アッコを生んだ
さて、その福嶋家とは。父親の福嶋久晃はいわずと知れたプロ野球の大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)で鳴らした名捕手である。
「娘たち(3姉妹)に対しては、はっきり言って親バカですよ。アッコ(晃子)についても、いいところしか見ていない。そして、その部分を伸ばしてやろうばかり考えてましたね」
親バカだろうが構わない。親が自分の子供のいい面を認めなければ、親子の絆は得られないだろうし、子供のそのいい部分が伸びるはずもないだろう。
キャッチャーの目で
プロの厳しさを語る父
親バカと公言してまで、自分の子供の素晴らしさを堂々と評価する。福嶋晃子の、あのポジティブな明るさの基本には、父親のこの姿勢があるように思われた。
「でも、それはキャッチャー時代にも、コーチ時代にもやってきたことなんですよ。キャッチャーのときにはピッチャーを、コーチの時には若手を、とにかくほめておだてて、育ててきた。
それで選手たちが自信を持てば、自ら進んで練習に取り組むようになります。練習はいやいややっても意味がない。自分からやるようになって初めて向上につながるもんだと思うんですよ」
プロ野球での経験を生かした娘との接し方は、そのほかにもいろいろあった。例えば、キャッチャーはピッチャーの緊張感を解いてあげるのが大事な仕事。同じように、晃子にもプレッシャーを与えるようなことは絶対に言わない。
「頑張れ」のひと言も、である。その世界を知らないものには、つい口をついてしまう言葉なのだが、これが選手には少なからずプレッシャーを与えるという。
それよりも「今日の目標はOB2発!」なんてことを言って気を楽にさせている。
また、晃子プロが自信を失いかけたり、迷っていると思われるときも、野球の要領で「じゃ、ミーティングしようか」と、ひと声かける。そして、それからプロ野球というシビアな競技社会での体験談を話して聞かせるのだそうだ。
そんな時、晃子は父親の前に正座して話を聞くという。そうすると、あの大物・福嶋晃子も、実は父親にうまく踊らされていうるというのが真相のように思える。
「そうですよ。あの子が10歳のときにゴルフを始めた時から、どうせなら世界を目指せ、言い続けてきました。『世界を目指せ、世界を目指せ』って、ほとんどマインドコントロールのようなもんですよ(笑)」
すべてがこんな調子。互いに信頼しあっている親子関係だから、子供たちもすくすく育ったのだろう。だが、この明るい家庭をもっと象徴しているのが母親の静江さんなのである。
明るい母は
「人に愛されるように」と
「うちは面白い家庭なんですよ。お父さんが横になって寝そべっていると、今でもアッコなんかその上に乗ったりしているんですよ(笑)。もう、サイコーでしょう!」と屈託なく笑う静江さん。彼女にとっては、晃子がスターであろうがなかろうが、関係なく自慢の娘ようだ。
いや、3姉妹すべてが自慢なのである。それぞれの可愛らしい点を何度も口にする。「お父さんは、娘たちのいいところをほめて伸ばしてきましたけど、私は娘たちに足りない点を教えてきたつもりです。そのことをきちんと聞いてくれ、守ってくれてるところが一番可愛いですね」
その静江さんが、教えてきたことは、社会のルールであり「人に喜ばれ、愛されることを考えなさい」という姿勢があった。
「ここまでは、素質と環境でできたんだと思います。でも、これからは人格的にも成長しないと一人目にはなれないでしょう。娘たちにはよくそんな話をしています」
それを受けて、久晃さんも、「アッコはジュニア時代に29のタイトルを取っていますが、実はその3倍は負けているんですよ。その悔しさに発奮し、自分に足りない点に気づき努力した結果が今のアッコなんです。だから、私は『努力のアッコ』と呼んでいるんですよ」
「実はプレーの面においては、アッコは私の想像のつかない高いレベルで判断しています。だから、私がアドバイスできるのはプロとして戦う姿勢。その点ではまだまだ甘さがあります」
姉は偉大なプレーヤー
5月のサイバーエージェントでツアー初優勝を飾った福嶋浩子プロ。姉・晃子について「私は、姉のマネージャーしていた時期もありました。姉の偉大さは十分すぎるほど感じていて、姉と比べてしまい自分にダメ出しばかりしていた」
姉と同じプロゴルファーの道を選び迷った時期もあったと浩子プロ。「今年になって姉とゴルフについてじっくり話し合うようになりました。たくさんの人に支えられて続けてきましたが、姉の存在があったからこそ、この優勝につながったんだと思います」
今年からタッグを組み始めたキャディの後藤さんの最初のひと言は「自分をほめることから、始めよう」だった。
やはり人は「ほめられて伸びる」ものなのでしょう。父・久晃氏の野球で培ったプレッシャーをかけずにいいところを伸ばしながらプロの厳しさを教える育て方。
人を育てるときのこの気持ちを大切にしたい。
一部引用/1995年月刊ゴルフダイジェスト7月号