やさしさはここからはじまった
多くのゴルファーが機械のような再現性の高いスウィングを目指してきたが、それに最も近づいた一人がニック・ファルドだった。マスターズと全英オープンを制した1990年前後の5~6年間、その精度は群を抜いていた。
ショットばかりかパッティングのストロークも同じで、アドレスしてからボールがカップに消えるまで、動くのは腕とその先にあるパターだけだった。彼の精密なストロークを支えるうえで、欠かせなかったのが「T.P.A.XⅧ」。T.P.Aには多くのモデルがあったが、ファルドは「XⅧ」以外は目もくれなかった。
T.P.Aはもともとテーラーメイドから発売されたが、1990年からウイルソンに移った。その頃、ファルドはウイルソンを使っており、「XⅧ」をチョイスした。
「XⅧ」は形状や重量配分からいえば、L字マレット、マレット、さらにはトウ・ヒールバランス型それぞれの良さを満たした"いいとこ取り"のパターだった。L字でいえば、マグレガ—のアイアンマスターやウイルソンの8802などのクラシックなモデルの流れ、トウ・ヒールバランスはピンのアンサーなどがベース。
そしてマレット型のベンチマークはといえばゼブラだった。
ゼブラが初めて登場したのは、60年代後半。座りの良さでツアーの評価を獲得、これを愛した一人がレイモンド・フロイドである。
90年マスターズ。一時は首位フロイドに5打差を開けられていたファルドが最終日の最後で追いつき、プレーオフに持ち込んだ。そして、いいとこ取りとマレットの一騎打ちはいいとこ取りに軍配が上がり、連覇を達成した。
もちろん、パターだけが勝敗を決めたわけではないが、この時代を境に、スウィートエリアの広さやソフトな打感、繊細なタッチ、構えやすさ、転がりなど複数的な機能を備えたパターが求められるようになっていった。ソリッドボールが使われ始めたのもその一因として挙げられる。
もちろんゼブラも座りが良かっただけではない。90年代初めのモデルは、ヘッド内部を空洞にしたことで慣性モーメントも大きくなり、内部にはウェート調整機能も付いていた。ただし、スクェア感やフィーリングという点ではアピールがやや足りなかった。
それに比べると、TPAの、中でもXⅧは、いいとこ取りだけあって複合的な機能を備えていたし、また米国でオデッセイ・スポーツ社が産声を上げたのがちょうど1990年で、ほどなく樹脂インサートをつけたパターが話題になったのも、ある意味では時代の要求にマッチしたからだろう。
TPAもゼブラもブランドとしての存在感はなくなってしまったが、持ち味は現在の主流になっているパターにしっかりと生き続けている。
文/近藤廣
(月刊ゴルフダイジェスト2014年10月号より)